「胴体」の鍛え方

2002.07.14.
(改訂)2004.06.23.

一流のスポーツ選手やダンサー、武術家の動きを解析して、どこが優れているかを分析(解説)するという方法は、今や珍しい方法ではありません。野球やサッカーなどの解説でも身体(からだ)について語られることが多くなってきたように感じます。
1998年に出版された伊藤昇の『スーパーボディを読む』は、こうした方法の人気を決定づけた本だったと思います。

「手先足先を動かしているもの、つまり身体の中心に目を向けなければならない。身体の中心とは、背中、胸、腰といった部分、すなわち「胴体」である。
(中略)胴体がどのように動いているのか、意識して見るようになると、すぐれた動きとそうでない動きの違いがわかるようになる」

伊藤昇は、手や足の動きに比べて見えにくい胴体の動きを3つに分類しました。その3つの動きとは、(1)丸める/反る、(2)伸ばす/縮める、(3)捻り(ひねり)です。わずか3つの動きに分類する、このシンプルな視点が『スーパーボディを読む』の成功を生み出したのでしょう。

「あらゆる動きはこの三つの胴体の動きのバリエーションに過ぎない。これを徹底して磨けば、動きの質は確実に向上するし、このことを意識するだけでも動きが変わる」

今や各方面から引っ張りだこの甲野善紀にしても、「ゆる」を前面に打ち出している高岡秀夫にしても、「初動負荷理論」で有名な小山裕史にしても、あるいはその他の武術家やスポーツインストラクターにしても、伊藤昇とは異なる見方や説明方法ではあっても、体幹部の重要性について必ず言及します。

それらに共通していることは、次の2点だと思います。
1.肩、胸、腹、腰を分離すること。個別に意識できるようにすること。
2.運動において、分離した肩、胸、腹、腰を協調させること。

胴体には、頭部のバランスを整える筋肉があり、姿勢を維持するための筋肉があり、腕や脚を動かすための筋肉があります。大きな筋肉、小さな筋肉、長い筋肉、短い筋肉と形態もいろいろです。そして、これらの筋肉群には、さまざまなストレスが押し寄せています。

いろいろな事情で生じる姿勢のゆがみが肩こりや腰痛の原因となったり、内臓の機能障害の誘因となったりすることは、テレビの健康番組や健康雑誌の記事で広く知られるようになりました。
椅子に浅く腰掛けたり、脚を組んで腰掛けたり、背中を丸くしていたり、長時間同じ姿勢で働き続けたりなど、生活習慣から姿勢にゆがみが生じることが避けられないのは明らかです。
胴体を鍛えると言うことは、つまり、身体の本来のあり方を追求することであり、動作のパフォーマンスの改善のみならず、健康の維持にとっても大切なことです。
「鍛える」と言っても、筋力トレーニングを意味しているわけではなく、筋肉の本来の働きを取り戻すことに主眼があります。そのために、まずはストレッチングを行うことによって、それまで意識できなかった筋肉の存在を意識できるようにし、肩、胸、腹、腰を分離し、それぞれをさらに細分化していくことが大切だと私は考えています。

ところで、筋肉のストレッチには、2つの役割があります。1つは、筋肉の柔軟性を高めることで、もう1つは、筋肉と脳との神経の連絡を良くすることです。

筋肉が伸ばされると、筋肉の中にある筋紡錘も伸ばされます。筋紡錘は筋肉の伸び具合を脳に伝えるセンサーです。ストレッチ中は、筋肉と脳の間で情報がやりとりされています。
ストレッチには、筋肉と脳との間の情報伝達を活性化させるという効果もあるのです。

『スーパーボディを読む』には、3つの動きに対応した簡単な体操が紹介されています。
伊藤式の体操を行うのもよいですし、ヨガやピラティス、野口体操、あるいは他の体操や運動法で自分の気に入ったものを取り入れればよいと思います。
無理をしないように充分気を付けて、関節の可動範囲の拡大よりも脳に刺激を与え続けることのほうが大切なのだと思って続けるとよいのではないでしょうか。

私は、数年前の一時期、真向法(まっこうほう)体操を毎日やりました。おかげさまで、その頃に開脚がスムーズに行えるようになりました。
最近はまた、脚を揃えての体前屈をよくやっています。ほんのちょっとずつですが、骨盤の裏側がゆるんできたように感じられ、これからの変化が楽しみです。

ストレッチには、運動神経の良い悪いは関係ありません。誰にでも効果が現れますから、脳と筋肉に刺激を与え続けることが大切です。ストレッチを単なる準備運動と考えずにコンスタントに繰り返すことで、必ず益するところがあるはずです。少なくとも健康に益することは間違いないのですから、毎日続けるという意識を持ちましょう。

(続編の「16.ストレッチ考」もぜひご覧ください)


スーパーボディを読む 『スーパーボディを読む』

著者: 伊藤 昇
出版社: マガジンハウス
定価: 1,575円(税込)

「見えない動きをマスターするには、まず見える動きを徹底して掘り下げることから始めたい。なに、そんなに難しく考えることはない。身体の根幹となる「胴体」の動きは三つしかないのだから。その三つとは、[丸める/反る]、[伸ばす/縮める]、[捻り]である。あらゆる動きはこの三つの胴体の動きのバリエーションに過ぎない。」(引用者注:捻り=ひねり)

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補足:
使われない筋肉は萎縮します。これを廃用性萎縮と言います。
一方、筋肉が柔らかいことが問題となる場合もあります。筋肉が張力を失って弱くなったために、身体がよく曲がるようになり、柔らかくなったように見えることがあるからです。これは、筋力がなくなったために、無抵抗になって曲がっている状態です。筋肉が無抵抗に伸ばされると言うことは、過伸展に陥る危険性があるということです。

哀悼:
『スーパーボディを読む』の著者、伊藤昇先生(飛龍会主宰)は、2002年5月、転移性肝ガンによる肝不全により逝去されました。