何に集中するか

2003.05.05.

「今日は集中して稽古ができた」、「今日は集中できなかった」
ほとんどの人が日々経験していることでしょう。そして「もっと集中しないといけないのに」と考えていることと思います。

「集中していない」というのは、つまり、余計なことを考えている状態と言い換えてよいでしょう。「雑念がある」と言うこともあるでしょう。
どんなことを「雑念」というのでしょうか?
例えば、太極拳をしているときに、「明日のテニスは何時集合だっけ」と思うのは雑念でしょうか?
「どこで晩ご飯を食べようかな」と思うのは雑念でしょうか?
「あっ、肩があがってしまった」と思うのは雑念でしょうか?
「足先を45度開け!」と思うのは雑念でしょうか?
「もっと股関節を開かないと、、、」と思うのは雑念でしょうか?
何を考えると「雑念」で、何を考えると「集中」なのでしょうか。

自分の次の動き方を考えるのは「集中」でしょうか?「雑念」ではないでしょうか?
例えば、先生に注意されたことを思い出しながら動きます。それで、うまく動けましたか? 何回か繰り返せばうまく動くようになりますか? もっとたくさん繰り返さないとうまくいきませんか?
うまく動けたときと、動けなかったときの違いはどこにあるのでしょう。

『新インナーゲーム』という本は、効率よく練習するために、あるいは、本番で実力を発揮するためにどのような精神状態にあればよいのか、どのようにして集中を得るのか、どのようにして‘ゾーン’に入るのかを論じた本です。
かといって、メンタルトレーニングの本ではありません。自分が成功しているイメージをリアルに思い浮かべて、、、というようなノウハウは書いてありません。心の中で渦巻く葛藤について、意識のありようについて、正攻法で論じている本だと思います。(現時点でこれに類似した本を他に思いつきません)

この本は、テニスを題材にしていますが、ある章で、心の葛藤を排除してプレーに集中するための方法が紹介されています。
ひとつ目は「ボールの縫い目を注視する」という方法です。心を縫い目に集中させることで、「過去や未来に心が飛ぶ」ことを抑えるのです。
ふたつ目は「ボールがコートにバウンドする瞬間に"バウンス"と大声で言い、ラケットに当たる瞬間に"ヒット"と大声で言う」という方法です。"バウンス"、"ヒット"と言い続けるわけですから、他のことを考える暇がないわけです。

しかし、ここまでのふたつの方法はテニスだからこそできる方法です。太極拳をする人には使えません(ボールやラケットを使う太極拳があれば別ですが、、、)
そこで、三つ目の方法なのですが、それは「ラケットの軌道を感じ取る」という方法です。テニスでは目はボールから離せませんから、ラケット(ヘッド)の位置は視覚以外の感覚で感じ取るよりありません。
「手首の5ミリの誤差は、ベースライン対ベースラインのラリーでは、6フィート近い誤差となって表れる」(6フィート=約183cm)
つまり、三つ目の方法とは、自分の体(の内側の感覚)に意識を集中することです。
「意識の焦点を、ラケットを前方に振り出す直前の、腕や手の感覚に合わせてみよう。ラケットの柄が手の中でどのように感じられるかも、意識する。どのくらい強く、または弱く握っているのか」
(中国武術の剣や刀などの器械を稽古している人は、先生に似たようなことを言われませんか)

さらに著者は、「自分の筋肉の感覚を増す」ために、「スロー・モーションで、異なる種類のストロークを体験」し、「体の各部分がどのように感じられるかに意識を集中」しようと提案しています。「ストロークの1インチずつの動きを感じ取り、筋肉の動きを(内側から)感じ取る」のだそうです。
ゆっくり動いて練習するのは、太極拳(あるいは武術)の専売特許ではなさそうです。

手や足や胴体をどう動かすかよりも、手や足や胴体がどうなっているかを知ることが大切なのではないでしょうか。
今、この瞬間に自分の体がどのような状態にあるのか、これを前提として次の動きが生じます。前提を知らないままで適切な動きが生まれるでしょうか
先生や先輩に注意されたことが、すぐに実行できたときは、自分の状態がわかっているときではなかったでしょうか。

「次」のことではなく、「今」を意識するのが「集中」のコツだと考えています。


新インナーゲーム 『新インナーゲーム』
著者: W・T・ガルウェイ
訳者: 後藤 新弥
出版社: 日刊スポーツ出版社
定価: 1,365円(税込)

「「集中」に関して、一つだけ明確なことがある。それは、常に「今、ここで」が対象だということだ。時間的に今現在であり、空間的にも今現在だ」
「集中力の途切れを引き起こす最大の要因は、この先どうなるかという心配や、過去を振り返っての後悔だ。俗に言う「たら、れば」に対し、人間の心はきわめて防御が甘い。「ここで負けたら、どうなるだろう」と、考え始めると、心配の連鎖反応が起きる」
(第7章「集中方法を学ぶ」より)

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