腱について知っている二、三の事柄

2005.5.29.

(またタイトルをパクってしまいました。映画のタイトルです。ゴダールさんごめんなさい)

(その1)
一般に、筋肉は腱によって骨につながっています。筋肉が収縮することで作り出された力は、腱によって骨に伝えられます。
腱にはゴムのような弾性がありますが、筋肉のような伸縮性はありません。

「腱は小さな部位にまで力を伝達することが可能であり、大きく厚みのある筋肉の部分を関節から遠ざけることができる」(『柔軟性トレーニング』)

例えば、手の指を動かす筋肉(手指筋群)は前腕部にあります。これらの腱は前腕部から指先まで伸びていて、指の曲げ伸ばしを支配しています。もし、指そのものに筋肉があったら、どうなってしまうのでしょうか。指の外形は「細い」「繊細な」と形容されるような形にはならないでしょうし、筋肉が邪魔をして握り拳(こぶし)が作れないでしょう。
(手自体に筋肉がないわけではありません。内在筋と呼ばれる小さな筋肉群があり、外在筋と協調して手の動きを生みだしています)
ということは、手指の形は長く伸びた腱を通じて、前腕部の筋肉群の状態と密接に関連しているということです。

(その2)
腱は自ら伸び縮みすることはありませんが、自らが伸ばされたことを検知するセンサーを装備しています。腱紡錘あるいはゴルジ腱器官と呼ばれます。
腱紡錘は、筋肉が受動的に伸ばされた場合、筋肉が能動的に収縮した場合の両方で刺激を受け、脳に筋肉の伸び具合を知らせます。
一方、筋肉の中にある筋紡錘は、筋肉が受動的に伸ばされた場合にだけ刺激を受けます。腱紡錘と筋紡錘の働きには、このような違いがあります。

筋紡錘の伸長は伸長反射、つまり伸長された筋肉を収縮させる反射を引き起こします。伸長反射は姿勢を維持するために重要な働きをしています。
腱紡錘が引き伸ばされると、筋肉を弛緩させるような反射(自己抑制)を引き起こします。こちらは、筋肉が過度に収縮して骨から離れてしまわないようにするためです。
これらの反射は同時には起こりません。腱紡錘のほうが閾値がずっと高いため、日常生活中の動作では、自己抑制を発生させるほどの筋肉の過緊張が発生しないからです。

(その3)
身体を動かすときに、筋肉の収縮力に加えて、腱の弾性をうまく利用することができると、パフォーマンスの向上が期待できます。
その場での垂直跳びでは、いったんしゃがみ込んだ反動でジャンプするとより高く跳ぶことができます。このような反動動作は、腱の弾性を利用するためのテクニックなのです。

ジャンプ動作では、しゃがみ込む動作でふくらはぎの筋肉(ヒラメ筋)が引き伸ばされます。このとき、筋肉が収縮して引き伸ばされることに耐えようとするため、両端の腱が伸ばされて弾性エネルギーとして力を蓄えます(このタイミングでは筋肉が緩まないことが重要です。筋肉が緩んでしまうと腱に力を溜めることができません)。
そして、しゃがみ込みから跳び上がる瞬間、筋肉の収縮力に加えて、腱の弾性エネルギーが解放されることで全体として大きな力を得ることができます(このタイミングでは腱の弾性エネルギーが消えないうちに切り返しの動作に入ることが重要です。伸ばされた腱が縮み始めるときに筋肉が緩んでしまうと腱の弾性が利用できません)。

このような動作をSSC(Stretch Shortening Cycle、ストレッチ・ショートニング・サイクル)と呼びます。SSCの長所はもうひとつあります。
筋肉が力を出し始めてから最大の筋力を発揮するまでには、わずかですが時間がかかります。力が必要な瞬間から力を出し始めたのでは、最大筋力に達する前に動作が終わってしまうかもしれません。
SSCでは反動動作の段階ですでに筋肉が収縮を始めていますから、主動作で最大筋力を出力することが可能になります。

SSCは予備動作で筋肉を強制的に伸長させるところがミソです。では、強制伸長が大きければ大きいほどよいかというと、そうではありません。その引き伸ばす力に筋肉が耐えられなければ、SSCが成立しないからです。

「外からの強制伸長させる力に耐えられるだけの筋力を持つことが、パフォーマンスアップにつながるといえます」(『使える筋肉、使えない筋肉』)

このように、筋肉と腱とは異なる特性を有する組織です。
身体の動き、骨格の変形を考えるにあたって、骨と筋肉というふたつの要素に腱という要素を加えて考えてみることも大切ではないでしょうか。



柔軟性トレーニング 『柔軟性トレーニング − その理論と実践』
著者: クリストファー・M・ノリス
監訳: 山本 利春
出版社: 大修館書店
定価: 2,100円(税込)

「姿勢は筋および非収縮組織の働きにより維持されている。よい姿勢とは身体部位間のアライメントが正しく、身体組織にかかるストレスが最低限であるような姿勢である。よい姿勢をとっていれば、筋活動は少なく、体はリラックスしており、姿勢保持に必要なエネルギーも少なくてすむ」
(「第6章 姿勢」より)

使える筋肉、使えない筋肉 『使える筋肉、使えない筋肉』
著 者: 谷本 道哉
監 修: 石井 直方
発 売: 山海堂
定 価: 1,890円(税込)

「動的に動くスポーツ動作ではSSCを使って近位→遠位に力を伝播していくことで四肢の先端に大きな力を発揮させることができます。このとき筋肉の力発揮は近位→遠位に順次、瞬間的に行います。それに対してSSCを使わない静的に動くトレーニング動作では、筋肉の力発揮は近位も遠位も同時に持続的に行います」
(「第1章 ウエイトトレーニングが使えない筋肉をつくるメカニズム」より)

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蛇足:
「腱」についてまとめて説明しているような本はないのでしょうか。
残念ながら私の手許にはありません。それで、上のように二冊の本を並べることになりました。
よい本をご存知でしたら、お知らせください。