足し算でも平均でもない

2006.7.2.

前回の「25.受動筋力よこんにちは」と同様に、今回も『スポーツの達人になる方法』を参考にしています。

「わたしたちが随意的に行う身体活動は、多くの関節が直列に、あるいは並列に連結された運動系を形作って営まれている。たとえば歩行では、1脚が空中にあるとき、接地している支持脚は足の関節、足関節、膝関節、股関節が順に連結して直列に連なった構造によって上体の大きな質量を支え、両脚が接地しているときは、足、膝、股関節の直列連結系が並列して上体を支えることになる」

イメージがつかめたでしょうか。「直列」「並列」という言葉を見ると、電池の実験を思い出す人もいることでしょう。電圧1.5Vの電池を2本直列に繋ぐと、電圧は3Vになります。
しかし、人間の身体が力を発揮するときには、電池とは別の理屈が働きます。小林先生はロープのたとえ話で説明してくれます。

「たとえば、1キログラムの力に耐えるロープ、2キログラムの力に耐えるロープ、3キログラムの力に耐えるロープなど、いろいろな強さのロープを直列に結んだ場合、そのロープはもっとも弱い力のロープである1キログラムの力以上の負荷には耐えられない」

つまり、3種類のロープを繋いだロープが耐えられる力は、個々のロープの耐えられる力の合計(6キログラム)ではなく、平均(2キログラム)でもありません。1キログラムを越える負荷がかかった時点で、一番弱いロープが切れてしまいます。強いロープはその力を発揮することはできません。

「直列の連結系では、個々の力のうちもっとも小さい力の要素が全体の出力を制約することになる」

では、脚力を充分に発揮するためには、足首を鍛えるしかないのでしょうか。

ある関節が連結系の「制約条件」になるかならないかは、連結系が出力しようとしている力の作用線(力が働きかける方向)とその関節の位置関係によって定まります。
小林先生は図と数式を用いて詳細な説明を展開してくれています(本書P.11〜P.15)。ぜひ解読にチャレンジしてください。

「つまり、ある関節に近いところを力の作用線が通るようにすると、その関節は力を出さなくてもすむような状態になるので、その関節は全体の力の強さの制約条件にならない」

具体的な例として、小林先生はボートを漕ぐ動作を取り上げて、足首や手首を「制約条件」にしない方法を説明しています。
また、手で相手を押すような動作で言えば、手のひらの上の方で押すよりも、掌根(しょうこん=手のひら下部の肉厚の部分)で押した方が、手首の力を使わないですみます。
一般に、スポーツや武術では、手首や足首といった力の弱い関節を力の「制約条件」としないで、力の「伝達要素」にするような工夫をしているはずです。

基本動作、基本の型(形)に含まれている意味を考え直してみましょう。



スポーツの達人になる方法 『スポーツの達人になる方法』
著 者: 小林 一敏
発 売: オーム社出版局(テクノライフ選書)
定 価: 1,470円(税込)

「初心者が力が出ないというときには、図8(a)のように無駄な力を発揮しているところがたくさんあって、直列連結系の筋力要素が多くなっているために、弱い筋力要素がたくさん生じ、その結果として、強い力がでなくなっているということが多い。運動の上手な人は、図8(b)のように無駄なところの力を除いて、筋放電が出る筋力要素が極力少なくなる姿勢や動きを工夫することによって、強い部分の筋力を発揮できるようにしていると考えられる」
(1章「イメージのもち方は、筋力のコントロールの質を変える」より)

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注:
上の本文で説明していることは、力の出力に関する空間的な側面です。実際には、時間的な側面についても考える必要があります。筋肉が最大の力を発揮するまでには、時間がかかります。力を必要とする瞬間よりも少し前から、筋肉は力を出し始めていないと間に合いません。また、いつまでも力を出し続けていると、逆に次の動作の妨げになってしまうかもしれません。