含胸抜背とは

2009.7.6.

今回のネタ本は太極拳関係の3冊をピックアップ。
太極拳をしていない方もしばしお付き合いください。(_ _)

一番上の『太極拳に学ぶ身体操作の知恵』は、この3月に発売されたばかりの本です。評判がよい本で、著者の笠尾楊柳(笠尾恭二)氏は1970年代から太極拳・中国武術の本を書いている方です。漫画の原作で有名になった松田隆智氏ほどは知られていませんが、一連の著作活動は松田氏にもひけをとりません。
この本は、太極拳の名前は知ってるけどやったことはない一般の方々にも読めるように工夫してあり、太極拳ファンが増えてくれるといいなと思います。

2番目の『太極拳理論の要諦』は近年品切れだった本ですが、再刊されました。太極拳を長く練習している方々が勉強のために購入しているのかなと想像しています。
内容が高度で、太極拳をしていない人はもちろん、太極拳の初心者にもちょっとおすすめしにくい本です。

3番目の『太極拳秘術』は、(書名からして怪しげですが)太極拳中級者でも腰が引けそうなくらい専門的な内容で、太極拳(特に楊家太極拳)がどのように成立したのか、その研究成果を解説した本です。太極拳の原型に興味がある方はチャレンジしてみる価値があります。

「含胸抜背」は「がんきょうばっぱい」と読みます。「虚霊頂勁」「沈肩墜肘」などといった言葉とともに、太極拳を練習している人には常識で、そうでない人には「何それ」という言葉です。

もし、あなたが「含胸抜背」は胸をすぼめることだとお考えでしたら、その考えを改めましょう。この3冊はいずれも、「含胸」は胸をすぼめる(背中を丸める)ことではないと教えています。

実は、かつて「含胸抜背」について、「胸を含むとは、胸をやや内側にすぼめることを言う」と書いた本があったのです。『太極拳秘術』によれば、これは日本だけのことではなく、中国でも同じような誤解があったのだそうです。

「含胸」はもとは「涵胸」と書いたそうです(発音が同じ別の字に置き換えるということが中国ではしばしばあります)。「含」という字から「胸をすぼめる」という誤解が生じたのではないか、と『太極拳理論の要諦』や『太極拳秘術』では書かれています。
では、「涵胸」とはどういう意味でしょうか。

「これはへこむ、くぼむのではなく、物事を包容できるように空間を作る、余裕を持つ、伸び伸びと開くことであることは明らかです」
(『太極拳理論の要諦』第三部 各論「(二)“涵胸抜背”について」より)

「その口伝(引用者注:楊澄甫の口伝)部分ではすべて「涵胸」の語が使われていて、「含胸」は使われていない。「涵胸」が、胸を開き、勁力を蓄えている状態を示すものであることは明らかである」
(『太極拳秘術』「第六章 王宗岳の拳譜を読む」より)

「含胸抜背」「虚霊頂勁」「沈肩墜肘」などの解釈は簡単ではありません。受験勉強式に正解を求めるという方式は通用しないのです。
ひとつの解釈に固執せず、セカンドオピニオンを求めることも意義があると思います。たとえ、それが先生が教えてくれた解釈だとしても。
特に、古い本に書かれている内容は、新しい本で確認しましょう。

太極拳の研究も進歩しているのです。



身体操作の知恵 『太極拳に学ぶ 身体操作の知恵』
著 者: 笠尾 楊柳
発 売: BABジャパン
定 価: 1,500円+税

「「胸を含む」とは胸を風船のように外側に張り出さずに、むしろイメージの上ではその風船を内側にすぼめるような気持ちで胸を柔らかく保つことです。そして「背を抜く」とは背中を開放することです」
(「第2訣 含胸抜背」より)

太極拳理論の要諦 『太極拳理論の要諦』(←今は表紙が変わっています)
著 者: 銭 育才
発 売: 福昌堂
定 価: 2,000円+税

「すなわち、太極拳が相当広く普及されている日本においても、この拳法の理論研究が未だに相応の地位を占めていません。太極拳界で見られる様々な問題(例えば、<中略>練習時間数に比べて人々の上達度がはかばかしくない、長年練習していたにも拘わらず、太極拳に対する興味が薄らいでいく、等等)は、正に理論研究の軽視から生じているのではないか」 (「序文に代えて」より)

太極拳秘術 『太極拳秘術』
著 者: 清水 豊
発 売: 柏書房
定 価: 2,200円+税

「太極拳でゆっくりと拳を打ち、八卦拳の走圏(そうけん)で上半身を動かさないまま円周上を歩くのは動の中に静を得ようとした故なのである。それまでは静坐など身体を動かさないことでしか意識の変容は生じないと考えられていたが、ある種の運動を行っている最中でも意識の変容は生じ、かえって静坐を用いるよりも良い結果の得られることが見出されたのであった」
(「第一章 双魚太極図の意味」より)

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参考URL:
「両儀堂」 (『太極拳秘術』の著者 清水豊氏のホームページ)