稽古の火加減

2009.10.5.

「火候」という中国語があります。料理の「火加減」を意味します。
「武火」が強火、「文火」が弱火を表します。

漢方薬を煮出すとき、急に強い火を使うと、材料を焦がしてしまいます。かと言って、ずっと弱火では漢方薬の成分を充分に抽出することができません。
まず、漢方薬の材料を水の中に1時間〜2時間ほど浸しておきます。そうして、材料が柔らかくなったら、鍋で煮ます(鉄製の鍋は向いていないそうです)。お湯が煮えるまでは強火を使い、お湯が沸いてきたら弱火を使って、じっくりと煮ます。

ご飯を炊くときは「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いてもフタ取るな」ですよね。
これは、ホントはもうちょっと長くて「はじめチョロチョロ、中パッパ、ぶつぶついう頃火を引いて、ひと握りのわら燃やし、赤子泣いてもフタとるな」といった風な言い方になります(バリエーションがいろいろあるようです)。
象印のホームページに説明がありました。

「このような火加減で炊くとおいしいごはんが炊けるということですが、この言葉は、現在でも、IHやマイコン等炊飯器の炊飯フローに次のように活かされています。
(1)はじめチョロチョロ → 浸漬・予熱
(2)中パッパ → 沸騰
(3)ぶつぶついう頃火をひいて → 沸騰維持(インバータで微妙な火加減をコントロール)
(4)ひと握りのわら燃やし → 炊き上げ(強火)
(5)ふた取るな → 蒸らし(二度炊き)」
(象印のホームページ「炊飯」に関する調査[ページの下のほう]より)

また、気功の世界でも「火候」という言葉を使います。
私が見つけたサイトでは、吸うほうが長く強い呼吸を「武火」、吐くほうが長い弱い呼吸を「文火」と説明していました。呼吸の加減を調理の火加減に例えたのですね。

この「強火・弱火」理論は、身体を動かすことにも応用できそうです。
スポーツとか武術の練習は、「強火」をいつ、どれだけ使うかがポイントになります。
のべつ幕なしに「強火」では、身体を壊すことが目に見えています。
「弱火」ばかりでは、身体能力の向上は期待できません。

健康を維持することだけが目的であれば、「弱火」だけでいいようにも思えますが、果たしてどうでしょうか。
アンチエイジングを考えるなら、ときには「強火」を、あるいは「中火」を取り入れることでより効果が上げられるのではないでしょうか。

「練功十八法」という体操があります。
1970年代から普及が始まった中国の健康体操で、太極拳や気功を練習している方々の間では、けっこう知られているものです。

YouTubeの練功十八法の動画Lian gong 1 serie exercicios 1 a 6[イタリア語みたいです]
(YouTubeで検索するときは Lian gong(=練功)とタイプしましょう)

上の動画で演じているのは、荘建申先生のようです。下記の本の編者であり、練功十八法の創始者である荘元明先生(著者)のご子息です。

「練功十八法」は、激しいスポーツをしている方にとっては中火、ゆったりとした運動をしている方にとっては強火として使える体操です。

この荘元明自身の手になる本の説明通りに行うのはなかなかたいへんです。
身体のどの部位に効かせるかを意識するのとしないのとでは、効果が違ってしまいます。
実践を試みる方には、ぜひ、本書の注意書きに忠実に実践されるようにおすすめします。

『中日辞典』によると、「火候」には火加減以外に、(道徳・学問・技能の)素養があることや、ものごとのタイミング(潮時)を表すことがあるそうです。
生活のさまざまな場面で「強火」や「弱火」が適切に使えることが、その人の能力(功夫)を現しているからでしょう。


練功十八法 『練功十八法』
著 者: 荘 元明
編 者: 荘 建申
訳 者: 橋 逸郎
発 売: ベースボール・マガジン社
定 価: 2,000円+税

「動作の正確さは疾病の予防・治療効果に直接影響する。(中略)各節動作の構造形式と筋肉・関節などの部位への要求をはっきりさせなければならず、作用する力によって受ける得気感(酸張感)は、動作の正確さを判断する基本的要求である。もし練功しても筋肉に得気感(酸張感)が出ないのは、動作が正確でないといえるので直さなくてはならない」
(「練功十八法の注意事項」より)

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補足:
本文中の動画の続き:
Lian gong 2 serie exercicios 7 a 12

さらにその続き(これで終わりです):
Lian gong 3 serie exercicios 13 a 18

蛇足:
古代から中国の文化をいろいろ取り入れている日本ですが、「火候」という言葉を日本人は使いません。
勝手な推測ですが、日本には火加減に関する言葉がもともとあったので「火候」とか「武火」「文火」などの言葉を輸入する必要がなかったのでしょうね。
中国で料理の技術が発展したのは十世紀以降のことだそうです。この頃に石炭の使用が普及して、一定の強さの火力を保つことができるようになったのだそうです。