耳・目・口・鼻のイメージ

2011.1.8.

「スカイフック」と呼ばれる姿勢(あるいは運動)のイメージがあります。
天井(または空)から垂らされているロープによって頭から(操り人形のように)ぶら下げられている状態をイメージしなさいという教えです。
太極拳を稽古している方々はもちろん聞いたことがあると思います。
ウォーキングのレッスンでも使われるでしょうし、いろいろなスポーツや踊りの稽古でも使われることがあるでしょう。

こうしたイメージ表現はときとして、解剖学的な説明よりも手っ取り早くインストラクターやコーチの伝えたいことを生徒さんに伝えてしまいます。
かと言って、イメージに頼ってばかりだと、人によっては解釈がズレたままレッスンが進行するということもあります。
イメージ表現と解剖学的に精確な知識との双方を使い分けるのが、先生の腕の見せどころです。

下記に紹介した本『身体のホームポジション』には、特に感覚器に関するイメージが重点的に紹介されています。

それらの中には、私にはピンと来ないイメージもあるし、面白い!と感じたイメージもあります。
今回はあえて、私の感じ方は抜きにして、著者が活用しているイメージの一部を紹介します。
もし、ご自身の感覚にマッチしたイメージがありましたら、今後、身体を動かす機会にお試しになってみたらよいと思います。

ただ、その前に本のタイトルに使われている「ホームポジション」という言葉の意味を説明しておきましょう。
著者の言う「ホームポジション」とは、簡単には「身体を取り巻く環境の変化に無理なく対応できる状態」を指します。
そのような状態になれれば、身体の外部からの情報と内部からの情報をバランスよく受け入れることができ、受け入れた情報(刺激)に自然に(適切に)反応できます。

「なぜなら、身体の内側の情報と外側の情報を、私たちは常に同時に受け取っているので、内部感覚器官と外部感覚器官をバランス良く働かせる必要があるからです。そしてこのような状態の時に、「身体の外側にある情報を、身体の内側で柔軟に受けとり、自然な動きとして反応できる身体の状態」、つまり、ホームポジションに至ることができると私は考えています」
(序章「もっと自由な身体になるために」より)


では、感覚器ごとのイメージを紹介します。
まず、耳(聴覚)に関わるイメージから。

「では今度は一生懸命聞こうとして自分から音をつかまえにいくのではなく、音が自分の頭の真横から自然に耳の穴に入ってくるイメージで何かの音を聞いてみて下さい。音は出来るだけ単調で、普通なら雑音として意識もしないもの、例えばエアコンや空調のノイズのようなものがよいでしょう。(中略)自然に肩や首の力が抜けるはずです」
(第二章「耳が緩むと身体が緩む!」より)


他には、耳を使って身体のバランス調整能力を向上させる方法が書かれています。

次に、目(視覚)に関わるイメージから。

「まず視覚野の場所を意識します。手で後頭部に触れて、後ろに出っ張っているところ(後頭隆起)を探してください。この左右周辺に視覚野があります。(中略)では今度は、出っ張りの少し斜め上あたりに、左右それぞれトンボのような大きな目があるとイメージしてください。慣れるまでは時々このあたりを直接手で触れてみてもよいでしょう。慣れれば触れなくても意識できるようになります。そして実際の眼球ではなくこのトンボの目で外の世界を見るイメージをしてください。どうでしょう?まず視野が広くなるのがわかるはずです」
(第三章「目を解き放ち自分の身体を感じよう」より)


視線を定めることで身体バランスの安定化を図ることも書かれています。これは日々の稽古で実践されている方も多いでしょう。
また、耳もそうですが、眼球を動かす筋肉の緊張を緩めることも身体の緊張を緩めることに役立ちます。

次は、口に関わるイメージですが、さすがに味覚のイメージではありません。
始めに、下あごを緩めること、舌を動かして緩めることの説明があり、それに続けて、

「(舌で上あごをさぐりながら)歯茎のすぐ奥に硬い部分があり、さらに舌を喉の奥側にずらして柔らかくなる部分が「軟口蓋」です。この部分を緩めるのに有効なのが上あごの「ドームを拡げる」意識です。
(中略)ドームの拡がりを感じつつ、下あごがぶら下がるのをイメージしてください。下あごだけを意識して緩めようとしていた時より、ずっとやりやすくなたのではないでしょうか?
またぶら下がるのは下あごだけではありません。舌も含めた内臓全体が上あごのドームからぶら下がっているのです」
(第四章「口を緩めて内臓感覚を開く!」より)


胃も腸も心臓も肝臓も上あごからぶら下がっている?
著者のイメージでは「上あごのドームが拡がって、そこから肛門までソーセージがぶら下がっている」のです。
ソーセージが好きでない方は、もっと上記のイメージが広げやすい、別のもののイメージに置き換えてもいいのではないでしょうか。

次は、鼻です。
鼻の穴(鼻孔)のすぐ先には、額・鼻の横・頬骨・上顎骨へと広がった、鼻腔(びこう)と呼ばれる空間があります。ここを意識するイメージです。

「額と小鼻の少し外側あたりに指を置いて。鼻腔全体を意識して下さい。その状態で洞穴に空気が流れこむような意識で呼吸するとどうでしょうか?
鼻の通りが良くなって、目がすっきりしたような感じになりませんか? また呼吸が深くなってお腹が動きだすことにも気づくとおもいます。鼻腔全体を意識して呼吸すると自然と腹式呼吸になるのです」
(第五章「鼻を緩めて自分の正中線を感じる」より)


本書によれば、鼻腔の奥は頭部の中心にある蝶形骨まで広がっています。この蝶形骨は筋膜(気道・食道などを取り囲む筒のような膜構造)を介して横隔膜につながっています。蝶形骨が固まると横隔膜の動きも固くなり、蝶形骨が動き出すと横隔膜も呼吸と共に自由に動きやすくなるのだそうです。

第五章には、匂いをかぐことで正中線を意識するというイメージの紹介もあります。
脳や脊髄などの神経細胞を取り囲む膜(硬膜)の片側は鼻の篩骨(しこつ)で、もう片側は尾骨なのです。
頭部の篩骨と、背骨の末端の尾骨は膜でつながっているのです。

この本は、まだ続きがあります。
「第六章:知覚と動きを連動させよう」
「第七章:身体の内部感覚を深める〜筋肉編」
「第八章:身体の内部感覚を深める〜筋膜編」
とくに、第八章の筋膜の解説は、類書にもなかなか説明が見られない部分です。


身体のホームポジション 『身体のホームポジション』
著 者: 藤本 靖
発 売: BABジャパン
定 価: 1,500円+税

「筋膜とはその言葉通り「筋肉を包む膜」です。いくら中身(=筋肉)が緩んでも、包み紙(筋膜)が固まったままでは、中身もまたすぐ固くなってしまうため、筋肉が緩むには筋膜が緩んでいる必要があります。構造的にはコラーゲンとエラスチンというタンパク質で形成され、筋肉以外にも骨、内臓、血管、神経など体内のあらゆる組織を包み込み、それぞれの組織を繋ぎとめて身体全体を構造的に支える役割を持っています」
(第八章「身体の内部感覚を深める〜筋膜編」より)

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補足1:
Wikipediaで「スカイフック」を調べると、自動車の記事が表示されます。
自動車のサスペンション(揺れを抑える装置)技術の基本となる理論とあります。

「スカイフック理論とは、物体を、もしも空中を走る架空の線に宙づり(スカイフック)の状態にして移動させることができれば常に安定した姿勢を保つことができるという理論であり、アクティブサスペンションの基本となる理論である」

なるほど、人間と同じですね。


補足2:
本文の「ホームポジション」という概念については、フェルデンクライスの言葉を思い出します。

「よい直立姿勢とは、最小限の筋肉活動で、どの方向へでも望むがままに、同じようにたやすくからだを動かせる姿勢である」

「悪い姿勢では、筋肉が骨の役目の一部を努めている。姿勢をよくするためには、重力にたいする神経系の反応をなにが歪めているかを発見することが重要である。生きているかぎり、全身体機構のあらゆる部分が、重力にたいして適合しなくてはならないからである」

感想文ページの「フェルデンクライス身体訓練法」を参照してください。