Night Walk

2011.4.5.

2011年3月11日、地震で停電になってしまった職場を出て、川崎駅に行った。
ところが、川崎駅はシャッターが降りていて改札内に入ることさえできない。
しょうがない、(電車が動くまで)どこかで時間を潰そうと東急ハンズに向かったが、営業していない。東急ハンズだけではない。マクドナルドもファミレスも営業していない。
川崎駅の地下街では、壁際や階段などあちこちで老若男女問わず座り込んでいる。公衆電話には行列ができている。
そんな光景を見ながら地下街を歩いていると、構内放送が流れる。「JRは本日は復旧しません」というアナウンスだった。

川崎駅前から実家のある三鷹を目指して歩き始めたのが午後5時を過ぎた頃(推定、正確には覚えていない)だった。
iPhoneの地図アプリを開き、おおまかなルートを決める。第二京浜(国道1号)を品川に向かって多摩川を渡り、その後は環八通り沿いに杉並区方面に向かえばよいだろうと考えた。

第二京浜の多摩川大橋で多摩川を渡る。私と同じように歩いている人が多く、多摩川大橋が工事中で歩道が狭くなっていたため、橋を渡る人で長い列ができていた。

多摩川大橋を渡り切るとすぐに環八にぶつかる。意外なことに、ここで左に曲がるのは私くらいだった。
環八を歩き始めてしばらくした頃、〇〇駅は遠いですかと聞かれた。自分もこのあたりは初めて歩いているのでわからないと答えた。

余計なことはなるべく考えないようにして歩き続ける。
横須賀線のガードをくぐると、「〜雪谷」という地名が目につくようになる。母方の亡くなった叔父が住んでいたので地名に覚えがある。

田園調布警察署前を通る。
東横線の線路の上を過ぎると玉川浄水場を左に見ながら歩く。後から地図を見ると西に向かっていたことがわかるが、歩いているときには「北へ、北へ」という意識しかなかった。

等々力不動前という交差点(環八と目黒通り)に出る。とても大きな交差点で、角に大きな石屋さんがあったのが印象に残っている。
玉川野毛町公園を左に見ながら歩く。
このしばらく前から、公園が現れるたびに砧公園ではないかと中の様子をうかがい、ちがうと気づくたびにがっかりしていた。環八を歩くと決めた時から何度か訪れたことがある砧公園が重要な目標になっていたのだ。

東急大井町線の線路を越えると、多摩美のキャンパスが現れた。多摩美がこういう場所にあるとは知らなかった。

瀬田の交差点、ここも大きな交差点(環八と国道246号)だった。

東名高速(首都高3号渋谷線)の下をくぐると、ついに砧公園(右は用賀)に着いた。
用賀駅から世田谷美術館までは何度か歩いたことがある。
去年の世田谷大会が行われた世田谷総合運動場体育館にも歩いて行った。
(この辺では達成感があり、モチベーションも高まる)

小田急線の高架下を過ぎた先のデニーズ(千歳船橋店)で夕食を摂ることにする。夜の10時を過ぎていた。
とんかつ定食を食べ、コーヒーを2杯飲んだ。
iPhoneでTwitter(ツイッター)を眺めて、太極拳関係の知り合いの消息を知る。

そうして、また、歩き始めたときである。
右足が痛いのだ。右足に体重がかかるたびに足の甲の横側、くるぶしの下のほうに痛みが生じる。
しばらく、様子を見ながら歩いていると、痛みが増すことはなく、速度も落とさずに歩けそうだった。

実は、この地震の日の2日後の日曜日は、太極拳の大会が予定されていた。
無理に歩き続けると、本当に足を痛めてしまうのではないか、そんな心配をしながらも結局は歩いてしまった。(結果的には、日曜日の太極拳の大会は中止となったのだが)

芦花公園を左に見ながら歩いて行くと、とうとう京王線のガード下を通過した。
もう川崎は、はるか彼方だと実感する。
そして、甲州街道に到達。三鷹まではまだ距離があるが、ここまでの距離に比べれば何ほどのこともないと思った。

この後、松葉通りに入り、玉川上水に沿ってしばらく歩き、三鷹市牟礼を抜けて実家のある下連雀にたどり着いた。
実家に着いたのは深夜0時頃、途中の休憩を含めて、7時間にわたる長い長い(約24km)旅路だった。
その後の出来事、東京や東北地方でのあれこれは皆様のご存知のとおり。
地震当日のこの時点ではまだ津波の被害の大きさや福島原発の深刻な状況は認識していなかった。

ところで、その後、私の右足の痛みはなかなか治らなかった。
左足はなんともなかったのに、なぜ右足だけ痛くなったのか?
右足の動きに問題があるのではないか?
右足への体重のかけ方に不都合があるのではないか?
いろいろ考えさせられた。いや、今でも考えている。


大地震のおかげで稀有な体験をさせてもらった。
最近はどうしたことか、また職場から三鷹まで歩いてみようと考えている。
長時間歩いても足が痛くならない歩き方を身に付けたい、三鷹にたどり着くための別のルートを知っておきたい、という気持ちが強くなってきた。


ボディワイズ 『ボディワイズ』
著 者: ジョゼフ・ヘラー + ウィリアム・A・ヘンキン
訳 者: 古池 良太郎 + 杉 秀美
発 売: 春秋社
定 価: 2,625円(税込)

「人間の身体は、地球の重力の場でうまく機能するように都合よくできている。格別な努力をしなくても私たちはまっすぐ立てるように生まれついている。しかし、身体のバランスが崩れていると、重力にたいして不自然な姿勢の身体を支えるために、無理な努力をしなければならない。この緊張が、本来柔軟でしなやかであるはずの心身を次第に堅く絞めつけることになる」
(第2章「意識構造における身体の役割」より)

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蛇足:
実は、実家にたどり着いてからも大変でした。親たちが寝ていて、いくら呼び鈴を鳴らしても起きてくれなかったのです。30分くらい、外で待ちぼうけでした。これには、歩いている時よりも参りました。