究極の身体

2002.11.17.

極めて意欲的な著作である。
イラストや写真も豊富で、わかりやすい本にしようという意識がうかがえる。 ところが、残念ながら文章に難がある。
全体の構成についても、内容の重複を整理すればもっと読みやすい本になると 思う。
また、読者の便宜のために参考文献の一覧を載せてほしかった。
以下は、ごく大雑把な概要である。詳細については直接本書にあたってほしい。

序 章
著者がこの本を書いた意図について説明をしている。
「“究極の身体”というのは人間らしい身体構造・身体運動を持ちながらも、 人体の中で眠っている、四足動物あるいは魚類の構造までをも見事に利用しき る存在なのです。言うまでもなく、人類が誕生するまでには、進化の過程で 魚類や四足動物の段階を経てきていますので、すべての人の身体の中にはその 身体構造が残っているのです。そして、その身体構造を利用して、四足動物や 魚類の運動というものを具現する存在こそが“究極の身体”というのが、私の 定理なのです」
(7ページ目 ← なぜか「序章」にはページが振られていない)

第1章 組織分化
自分の身体をその構造どおりに意識でき、使えるか。
例えば、肩関節や肩胛骨は肋骨とは直接つながっていない。鎖骨を介して胸鎖 関節で体幹部とつながっているだけで、肩関節も肩胛骨も肋骨から浮いている。 このような人体の構造を生かした動きがパフォーマンスの向上につながる。
『アレクサンダーテクニークの学び方』や『音楽家ならだれでも知っておきた い「からだ」のこと』を読まれた方は、そこに書かれているボディ・マッピン グの内容を思い出してほしい。
さらに、著者は魚類の身体運動(脊椎系の身体運動)を開発することが重要だ と説明している。

第2章 脱力と重心感知
人間は、頭部にある前庭や三半規管だけでなく、筋肉の中の筋紡錘からの情報を 総合して重力や自分の動きを感知している。つまり、重心を感知して精密に重心 コントロールするためには、全身の筋肉の緊張がより少ないほうがよいというこ とになる。
野口体操のことばを借りれば「ある動きをするために、働く筋肉の数は少なく、 働く時間は短く、働く度合いは小さいほどいい」ということになる。
単に「立つ」ということのためにも余計な筋肉を使いたくない。そのために、 骨で立ちたい。自分の重さを骨で支えるようにし、筋肉で支えたくない。
天地方向に身体を貫く「センター」の意識(太極拳のことばでは立身中正)が 極めて大切である。

第3章 背骨
人間の背骨は、左右方向の運動にも前後方向の運動にも対応している。この構造 を生かした「体幹主導系」の運動を発達させるべきである。
著者は、爬虫類や哺乳類の体幹部の構造の差異を説明しながら、人間の身体構造 の特徴を明らかにしている。

第4章 多重中心構造論
要するに、動きの中心(ここで著者が“中心”と呼んでいるものは“支点”と 思うとわかりやすいのかもしれない)になる部分が体幹部の各所(股関節・ 仙腸関節・腰椎・胸椎など)にある、というのが著者の主張である。
また、足裏の中心が脛骨(すねの骨)の直下にあるということを、自らのスキー 体験を交えて詳細に解説している。

第5章 各論
(1) 手
手が十分に働くためには手根骨の働きがポイントであり、さらには、前腕・上腕 ・肩関節・肩胛骨・肋骨まで動き出さないと高度な動きができない。

(2) 足
膝と足首の間には腓骨と脛骨があるが、脛骨で体重を支えることが大事である。 腓骨の太さは脛骨の1/4〜1/5しかない。
前に進む場合、まず、(足首の力を抜き)踵骨の働きによって重心を前方に移動 させる。重心が移動しきった時点で股関節が前方に位置するために大腿骨が 引っ張られ、膝関節が引っ張られ、脛骨が引っ張られ、距骨が引っ張られるので、 踵が上がってくる。拇趾球で蹴るのではない。

(3) 肩包体
肋骨の上部にある、肩関節・肩胛骨・鎖骨およびその周辺の筋肉、これらをまとめ て著者は“肩包体”と呼ぶ。この部分が肋骨の上でズルズルに滑って動くように するとよい。

(4) 甲腕一致
肩胛骨と腕(上腕)が同一平面上にある状態を“甲腕一致”と呼ぶ。腕を横に 伸ばしたときに、肩胛骨と腕(上腕)が同一平面上に置くことは難しくないが、 前に伸ばしたときに“甲腕一致”とするためには、肩胛骨を背中側に対して立てる (肩胛骨を前方にずらす)ようにする必要がある。これができるようになると、 肩胛骨全体が腕の上げ下げという運動に参加する、つまり肩胛骨周辺の強大な筋肉 群がその運動に参加することになる。

(5) 割腰
仙腸関節がわずかに動くことで、腰が左右に分裂しわずかに前後運動の成分が生じ る。それにより、脚が大腿骨から始まるのではなく、股関節のさらに上の腰の中か ら始まるように見えてくる。これを“割腰(われごし)”と呼ぶ。
この状態では、胸椎・腰椎と大腰筋で下半身を吊り下げているようなイメージに なる。
「つまり“究極の身体”というのは、重力に逆らって魚が尾びれで立っている状態 なのです」(p.184)

(6) 腸腰筋
腸腰筋は体幹部の中心に近い位置にあり、腸腰筋で脚部を制御できるようになると、 左右へのバタツキや無駄な動きをより少なくすることができる。

(7) 割体
身体の中心軸に沿って右半身を右側体、左半身を左側体と呼ぶ。右側体と左側体を 上下にずらしたり、前後にずらしたりすることを“割体(かったい)”と呼ぶ。
“割体”は背骨だけの問題ではなく、胸側を含めた体幹部全体の問題でもあり、 体幹部のより深いところにある脊椎深層筋群、肋間筋、横隔膜や大腰筋、腸骨筋、 あるいは、ハムストリングスなどの体幹部と脚を関連づけている筋肉群が正しく 使われることも必要である。

(8) 軸
“センター”は、背骨の前寄りの部分を通り、大腰筋の間を通り、股の中央よりも やや後ろ、肛門より少し前(会陰)から腿のやや後ろ側の間を通って、膝の裏に 抜けていく。

(9) 全身分化
これまでの各論で述べてきたことのまとめに相当する。
“究極の身体”の立ち方は、操り人形を上から垂らして立たせたような立ち方で ある。

第6章 “究極の身体”図鑑
ほとんどアメリカのバスケット選手マイケル・ジョーダンの話。他に、アルペン スキー選手、指揮者の故カラヤン、日舞の武原はん、宮本武蔵が取り上げられて いる。
また、スキーのターンについてもページを割いて説明している。


究極の身体 『究極の身体』
著 者: 高岡 英夫
発 売: ディレクト・システム社
定 価: 2,940円(税込)

「「身体資源論」というのは、(中略)簡単に言うと「人間の身体というのは、 発達した現代の工業技術を持ってしても、まったく太刀打ちできないような精 密で超高機能な運動(作業労働やスポーツなど一切を含む広義の概念)が行え る、巨大な資源だ」という考え方です」
(「あとがき」より)

運動科学総合研究所 ホームページ[ http://www.undoukagakusouken.co.jp/ ]

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