『身体革命』と『トータル・バランス・コンディショニング』

2005.2.28.

身体についての基本的な認識は同じなのに、その調整の方法論が(見事なほど)対照的に異なる本2冊を紹介したい。

『気分爽快!身体革命』(以下、『身体革命』と記す)は、「胴体力」で有名な伊藤昇の著作で、身体の不調を正し、楽に動かせるようになるためのハウツー本である。1994年にKKベストセラーズから出版された同名の本(絶版)の新装改訂版だ。

『トータル・バランス・コンディショニング』(以下、『トータル』と記す)は、スポーツ選手の治療やトレーニングに詳しいドクターとトレーナーが共同で執筆している、「全身的な筋バランス改善方法」である。
『トータル』では、まず姿勢を歪めるウィークポイントがどこかをチェックする。柔軟性、筋力、動きの特徴などをチェックし、それに対応したエクササイズを行い、またチェックする。そしてエクササイズを行い、またチェック、、、ということを繰り返していく。

一方、『気分爽快!身体革命』では、胴体を伸ばす・縮める/丸める・反る/捻るという3つの基本動作を行っていれば、すべて解決!とたいへん話が早い。

「どんなに身体の具合が悪くなり故障をしても、その原因をつきとめ、身体に無理のかかっているや歪みを取りのぞき、身体がもっと楽に動くようにトレーニングをすれば、いくらでも身体は良くなります」(『身体革命』の「まえがき」より)

中心となるコンセプトは『トータル』も同じで、身体の歪みは「筋バランス」の崩れに原因があり、「筋バランス」の崩れが改善されれば動きも改善される(基本的には)、と考える。
ここでいう「筋バランス」は、柔軟性、筋力、筋量、筋長、機能性(筋力を適切に調整できるか否か)、連動性(他の筋群との連動)の6つの要素から判断される。
例えば、ハムストリングスの筋力が弱いために下腿三頭筋がオーバーワークになり、アキレス腱炎になってしまうことがある。せっかくアキレス腱を直しても、ハムストリングスの筋力が弱いままでは、またアキレス腱を痛めてしまう可能性が大きい。これは単純な例だが、もっと身体全体に関わるようなマイナスの連鎖が生じている場合もある。
したがって『トータル』の方法では、身体のどこが本当のウィークポイントなのかを探すために、頭から足までの主要な部位について左右個別に筋バランスをチェックするので、たいへんな手間がかかる。素人にはできそうもない。

これに対して『身体革命』のほうでは、肩凝りの人はこの体操、鼻がつまる人はこの体操、目が疲れる人はこの体操とこの体操というように、症状別の対応方法が簡潔に書かれている。
しかも、こうした不快な症状の改善だけでなく、性格や行動までもが3つの体操で変えることができるというのである。あきっぽい人はこの体操、怒りっぽい人はこの体操とこの体操など、本当かしらと思うほど簡単に書かれている。

このような書き方をすると『トータル』のほうが緻密なように見えるのだが、専門家にとっても人間の身体というのは一筋縄ではいかないシステムらしい。

「(ウィークポイントが)改善されない場合には、ウィークポイントを疑い、エクササイズの強度、フォームなどを修正して再びエクササイズを行い、再検しながら、より効果と完成度の高いエクササイズ・プログラムの提供を目指します」(『トータル』の「part4.筋機能の調整と再統合」より)

つまり、ウィークポイントの判定に試行錯誤する場合もあるということなのだ。

『トータル』には、身体(骨格)の歪みに関する実例がレントゲン写真やMRI画像によって、いくつも示されている。脊椎の側湾、頸椎アライメントの異常、椎間板ヘルニア、股関節や膝関節の変形などである。
こうした写真を見ていると、無理な動きを繰り返すこと、姿勢の歪みに気づかないままでいることの怖さが実感できる。


スポーツを楽しむ上で障害となる症状や、日常生活に支障をきたすような症状がある場合は、『トータル』のような方法で(プロの力を借り)、慎重に対応するのがよいかもしれない。
一方、重篤な障害がなく、スポーツのパフォーマンスを上げたいとか、疲れない身体になりたいとか、目標が漠然としているような場合は、あまり考えすぎないでとにかく『身体革命』の3つの体操に取り組むのがよいのではないだろうか。
(もちろん、『身体革命』の3つの体操にこだわる必要もないわけで、真向法とか自橿術とか操体法とかピラティスとか、安全に続けられるものなら何でもよいと思う)


気分爽快!身体革命 『気分爽快!身体革命』
著 者: 伊藤 昇
編 集: 飛龍会
発 売: BABジャパン
定 価: 1,470円(税込)

「最近、簡単なことで故障・ケガを起こす人がふえていますが、これは運動不足というよりも身体の使い方が悪いからです。(中略)手・足だけで頑張るような無理な動きをしていれば身体のあちこちに負担がかかり、疲れやすく、さらに故障しやすい身体になってしまいます。
現代人は、子どもも含めて、異常に胴体がかたくなっています」
(総論「身体は楽に動くもの」より)

トータル・バランス・コンディショニング 『トータル・バランス・コンディショニング』
著 者: 佐藤 拓矢
監 修: 安藤 邦彦
発 売: 山海堂
定 価: 1,890円(税込)

「トータル・バランス・コンディショニングの到達点は、すべてが左右対称の「ニュートラルバランス」であるとは限りません。例えば、アスリートであれば最も快適にベストパフォーマンスが発揮できる選手独特の“ベストなアンバランス”もあります。(中略)ですから、正中線に対して常に左右対称な状態を目指すことがよいのではなく、本人にとって調和された左右非対称な“ベストバランス”を把握し、維持・改善していくことが重要なのです」
(Part 1「トータル・バランス・コンディショニングとは」より)

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補足:
『身体革命』では、利益誘導型の表現が乱発されていて、眉につばをつけたくなる読者も多いのではないかと心配になる。これは、もともとの出版社であるKKベストセラーズの方向性(よく言えば実益を重視する、悪く言えば扇情的な言葉で人の気をひく)に従ったため(あるいは従わざるをえなかったため)なのかなぁと思う。


おまけ:
KKベストセラーズ版『身体革命』からおよそ4年半後に書かれたのが、かの『スーパーボディを読む』である。
この2つの著作の間に伊藤昇はどう変わったのか、それを伺わせるのが『スーパーボディを読む』で使われている「細分化」というキーワードである。
『身体革命』から『スーパーボディを読む』までの間に、フェルデンクライスメソッドの影響を受けたのだろうと私は想像している。『スーパーボディを読む』の骨盤の細分化の節に書かれている、時計の文字盤のイメージを利用するやり方は、フェルデンクライスメソッドの引用と思われるからである。