『はじめての呼吸法』

2005.8.27.

最近の健康ブームの中で、呼吸法についても取り上げられることが多い。
本書の「まえがき」では、

「呼吸法は呼吸のしかたを練習することであるが、知らなくたってまったく人生に支障のない技術である。がしかし、知っていればけっこう人生の役に立つ技術でもある」

と、控えめに書かれている。しかし、呼吸が身体を動かすこと、健康を維持すること、ヒトが生きることそのものと不可分のものである以上、重大なテーマであることは間違いない。

野口三千三(のぐち・みちぞう)は『原初生命体としての人間』の中で、次のように述べている。

「すべての動きは、こうでなければならないというギリギリの呼吸のあり方がある。逆にまた、すべての呼吸・発声にとって、こうでなければならないというギリギリのからだのあり方がある」(第3章 息と「生き」より)

だからと言って、野口三千三は、機械的な精密さで呼吸と動きを同期させよと唱えているわけではない。動きと呼吸は自然に関連している、あるいは、当然のこととして関連しているのだから、それを自覚しなさい、と言っているのである。

「形が同じように見える運動でも、それを呼吸のどの時期(息を吐くとき−呼息、息を吐いた後、吸う前−止息、息を吸うとき−吸息、息を吸った後、吐く前−保息)で行うか、どんなふうに息するかによって、非常に自覚的な感じが違うものである。そしてその動きによる仕事の質や量も大きく変化し、その動きの表す感じも違っているのである」(『原初生命体としての人間』第3章 息と「生き」より)

野口三千三は空手や拳法の「突き」の動作を取り上げて、息を吐きながら突く場合と、吸いながら突く場合の違いを指摘している。

本書(『はじめての呼吸法』)の第3章「チャンレンジ the 呼吸法」の冒頭には、首や胴体、腕、足の動きと呼吸の関係を感じるための簡単な動作が紹介されている。
難しいことを要求する動きではないので、自分自身の感じをよくよく吟味してほしい。
第3章「チャンレンジ the 呼吸法」50ページの中の18ページ、つまり36%にあたるページを費やして著者が説明していることの意味、つまり、動きと呼吸の関係を感じることの重要性を考えてみてほしい。
例えば「腕を上げるとき息を吸う。下ろすとき吐く」ということを情報として記憶する必要はない。自分で腕を上げ下げすれば、どちらで息を吸い、息を吐くかわかるはずであり、そのような実感が呼吸を考えること、呼吸と動きの関連を探る第一歩となる。

「突き」に関して言えば、太極拳を練習している方々は、突くときは息を吐くというように教わっているはずだ。逆に、息を吸いながら突くとどんな感じかを、味わってみてほしい。

本書を読んでいると、呼吸のメカニズムや呼吸が神経系に与える影響について、知らないことや意識していないことが多いものだとわかる。また、冷え性対策、便秘対策、血圧コントロールなどの実用的な運動プログラムも紹介されている。

身体の構造と動きの関係について知ろうということを別の文で書いたが(稽古雑感ページの「9.体の地図作り」や「18.今そこにある骨」、「20.腱について知っている二、三の事柄」などを参照)、今後は、身体の動きと呼吸の関係についても関心を強めていこうと思う。

「呼吸法がどのようなことに役立つか、それは身体に関することすべてと思って間違いない。健康とか、動き(スポーツ)とか、武道とか……、身体に関することすべてに呼吸は関係している。その関係の仕方を学び、良き道具として使えるように練習すること。それが呼吸法である」
(『はじめての呼吸法』「まえがき」より)

テレビや雑誌で呼吸法が取り上げられるときには、効能やエクササイズに注目されることが多く、基本的な解説にはわずかの時間、少しのページしか割かれないことが予想される。
本書は、呼吸の基礎固めにいつでも役に立つだろう。


はじめての呼吸法 『はじめての呼吸法』
著 者: 雨宮隆太・橋逸郎
監 修: 楊 進
発 売: ベースボール・マガジン社
定 価: 1,890円(税込)

「ひとは強い痛みを感じたとき体を丸めて痛みに耐える。この痛みへの反応を屈曲反射という。病気になって痛みがあると体を丸める。これは呼吸運動的には息を吸いにくい体形で、十分な空気(酸素)を吸い込もうとすると、ふだんよりも筋力(エネルギー)を多く使用し、疲れが増加する。痛みが強くて体を丸めるようなときには、医師から痛み止めをもらい、体を伸ばしてゆっくり休むようにしよう」
(コラム「体を丸めるな!」より)

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補足:
同じ著者による『太極拳と呼吸の科学』を既にお読みになった方、これからお読みになろうと思われる方には、本文で紹介した野口三千三の『原初生命体としての人間』第3章を併読することをお勧めする。

おまけ:
いろいろ悩みながらも日々稽古を続けている方々に、あるいは身体を動かすことを楽しんでいる方々に、野口三千三の次の言葉をささげたい。
「からだの感覚というものは、それがわかるまでは皆目見当がつかず、むずかしく、頼りのないものだが、いったんそれがわかってしまえば、あたりまえで、やさしく、はっきりしているものである」
(『原初生命体としての人間』第3章 息と「生き」より)