『第三の脳』

2008.2.19.

「成人の皮膚はたたみ約一畳(一.六平方メートル)の面積があり、重さは約三キログラム。重そうな脳が約一.四キログラム、肝臓がせいぜい二キログラムですから、ずいぶん大きな臓器です」
(「第一章 皮膚は未知の思考回路である」より)

皮膚は「臓器」であると著者は主張する。
皮膚の重さなど考えたことがなかったが、3キロもあると言われればずいぶんと重いものだと感じる。
また、体液の流出を防ぎ、人体のすべての器官を包み込んでいるという意味で、内臓の器(うつわ)として「臓器」と呼んでもいいのかもしれない。

本書では、皮膚の構造や機能を改めて確認し、今世紀に入ってからの皮膚研究の成果を知ることができる。

「皮膚は深いところから、皮下脂肪、次いで真皮と呼ばれるクッション組織、さらにケラチノサイトと呼ばれる細胞がびっしり重なり合った表皮、その表面を覆う角層という、死んだ細胞と脂質(油分)が重なり合った一〇から二〇ミクロンの膜、これらによって構成されています」
(「第一章」より)

古くなった角層は垢となってはがれ落ち、絶えず新しい角層で更新されるが、その間も、同章で説明されている「精巧なシステム」によって皮膚の機能は維持されている。

皮膚には免疫機能も存在する。表皮の中に点在するランゲルハンス細胞が異物を認識することは知られていたが、今世紀になって、ケラチノサイト(表皮)にも細菌の侵入を感知する「受容体」があることがわかった。
二十世紀末には、「抗菌ペプチド」と呼ばれる一種の殺菌剤を表皮が生成していることをドイツの研究者が発見しており、今ではさらに数一〇種の物質が発見されているという。
しかも、皮膚(というシステム)は常に角層の状態をモニタリングして、これらの防御機能の働きを調節しているのだという。

「これだけ多くの機能をもったケラチノサイトが死んだ後に、表皮の最も外側にあたるバリア(=角層)を形成し、その役目を終えると潔く垢となって落ちてゆく。なんと優秀で健気な細胞なのでしょう」
(「第一章」より)

では、皮膚が「第三の脳」である、とはどういうことか。

ヒトの受精卵が細胞分裂を始めた最初の頃に、外胚葉(がい・はいよう)、中胚葉、内胚葉という3つの層ができあがる。内胚葉から消化器系が生まれ、中胚葉から骨や筋肉ができる。そして外胚葉からは神経系、感覚器、表皮が形成される。

「臓器の超エリートである脳と、最後は垢になる表皮、この二つは驚くべきことに「生まれ」は同じ。さらに基本的なシステムや細胞単位でのふるまいも見分けがつかないぐらい似ているのです」
(「第二章 表皮は電気システムである」より)

神経細胞はON(興奮)とOFF(抑制)の2つの状態を行き来する。この性質によって、末梢から脳へ、脳から末梢へと信号を伝達する。
皮膚にもON(興奮)とOFF(抑制)の2つの状態がある。

著者(化粧品会社の研究所に勤務)は、表皮の「興奮」と「抑制」のシステムと「肌荒れ」との関連を調査した。
すると、表皮が「興奮」するとバリアの回復が遅れ、肌荒れがひどくなり、「抑制」するとバリアの回復が促進され、肌荒れが治るという結果だった。この際に使用した「抑制」剤は精神安定剤(トランキライザー)の一種で、「脳をリラックスさせる薬剤は皮膚に塗っても効果があった」という。

ウソ発見器は皮膚の電位を測定して、心理的な動揺を検出しようとする装置である。皮膚表面がマイナスの電位をもつことは、十九世紀には既に知られていた。
これに関して、電位を発生させる仕組みは汗腺にあるのだろうと長い間考えられていた。ところが著者は、汗腺がなくても電位が発生すること、「表皮が電位を作っていること」を証明したのである。
表皮はその形や機能を維持するために電気を起こしているらしい、と著者は推測している。

さて、頭蓋骨の中の脳が「第一の脳」で、全身をおおう皮膚が「第三の脳」である。
とすると?「第二の脳」とは何だろうか。
もちろん本書では説明されているが、あえてここでは伏せておくことにしよう。



第三の脳 『第三の脳』
 著 者 : 傳田 光洋
 発 売 : 朝日出版社
 定 価 : 1,500円+税

「二〇〇七年の研究皮膚科学会で、精神的ストレスを受けた場合、脳が指令を出し副腎から放出されるグルココルチコイド(人間の場合、コルチゾール)を表皮細胞のケラチノサイトが合成し、放出しているという報告がありました。さらに皮膚に傷ができるとコルチゾールを合成する酵素が表皮の中で増えるというのです(Tomic - Canic SID abstract 2007)。つまり精神的なダメージも皮膚のダメージも同じ変化を身体にもたらすのです」
(「第五章 皮膚がつくるヒトのこころ」より)

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注:
実はインターネットで "第二の脳" と入力して検索すると、複数の意見があることがわかる。
"手"が第二の脳であるという説もあれば、"○△□"が第二の脳であるという説もある。本書では後者の"○△□"をとっている。