『やさしいダンスの物理学』

2008.6.26.

バレエの起源は15世紀のイタリアにあるという。
16世紀、イタリアのメディチ家からフランス王室に嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスによって、バレエはフランスに伝えられた。
「太陽王」と呼ばれたルイ14世は自らダンスを踊るほど熱中し、1661年に王立舞踏アカデミーを設立した。ルイ14世の舞踏教師ピエール・ボーシャンによってポジションが定められ、舞踏符が確立されるなど、バレエの体系化が進められた。
18世紀にはフランスの宮廷からロシアにバレエが伝わり、サンクトペテルブルグにバレエ学校が創設された。
ロシアにおいてバレエの技法はさらに発達し、19世紀末には「眠れる森の美女」「「くるみ割り人形」「白鳥の湖」(3大バレエ)が誕生した。

身体技法としてのバレエの歴史で注目すべきところは、18世紀から教育体系(メソッド)が整備され、バレエ学校でダンサーを教育するというシステムが確立されていたことではないだろうか。
スイスで開催されるローザンヌ国際バレエコンクールは若いダンサーの登竜門で、東西ヨーロッパ・南北アメリカ・中南米・アフリカ。アジアなど世界各国の十代のダンサーが集まる。肌の色や体型のちがいは明らかだが、彼らは同じバレエを踊っていると感じる。ダンサー個人の習熟度のちがいはあっても、出身国によるちがいがバレエの動きに表れないのは、バレエの教育システムが世界的に普及しているからだろう。

そのような教育体系から次々と優れたダンサーが生まれている。
例えば、
ポリーナ・セミオノワ:http://www.youtube.com/watch?v=Uz2Gp7a38DM

いかがだろうか。(素晴らしいでしょ?)
カメラワークやカット割りの巧みさを割り引いて考えても、彼女のバランス感覚や技術の高さは充分感じられると思う。
片脚で立ちながら、別の脚を上げても、両腕を大きく動かしても姿勢が崩れない。物理学の言葉を使うと、重心と床に接している支持点(足裏やつま先)が垂直を維持しているからである。もし、重心と支持点を結ぶ線が垂線から離れたら、直ちに調整を開始しなければならない。

「最初の角度が1度だと1秒後には約8度になり、最初の角度が4度だと1秒後の体は垂直から30度以上の角度になる。すなわち、最初の角度に8を掛けた角度が1秒後に体が傾いた角度になる」
(「第1章 バランス」より)

この1度と4度という角度の差は「重心位置にすると2cm程度」だという。
バランスの崩れを回復させる方法は2つしかない。支持点(または支持面)を重心の真下に移動させるか、重心を支持面の上に移動させるかである。

「上半身をリラックスさせておけば、バランスから少しずれたときの感覚に敏感に対応することができ、目立たないように調節することができる」

バランスの崩れは比例的ではなく、加速度的に増大するので、ずれが小さいうちに調整するのが理想である。小さいずれを感知するためには、センサーが敏感でなければならない。ここで必要なセンサーとは三半規管だけでなく、筋肉の中にある筋紡錘も含まれる。
同時に、ずれを素早く修正するためには、必要な筋肉がすぐに働ける状態にあること、つまり余計な緊張がないことが必要となる。
筋肉をリラックスさせておくことは、バランスの崩れを検知することと調整することの両面で重要である。

人は自分のバランスが(生物学的に、生理学的に、人間工学的に)どのように維持されるかを知らない。ただ、人間が本来有するバランス維持の仕組みが機能するような条件を整えることで、バランス能力を向上させることができる。それはポリーナ・セミオノワのような優れたダンサーや、多くのスポーツ選手が証明している。

本書『やさしいダンスの物理学』(原題:Physics and the Art of Dance、副題:Understanding Movement)をよく理解するには、やはり数学の知識があったほうがよい。ただ、写真や図が豊富に用意されているので、数学の力不足はある程度はカバーできると思う(ガッツで?)。

上記ポリーナ・セミオノワの動画で2分45秒あたりから、片脚だけでの回転動作(フェッテ・アン・トゥールナン)が始まるが、このような回転動作(回転速度の制御方法とか)やジャンプについても詳しく説明されている。
(今回紹介できなくてすみません)



やさしいダンスの物理学 『やさしいダンスの物理学』
 著 者 : ケネス・ローズ
 訳 者 : 佐野 奈緒子・小田 伸午
 監訳者 : 蘆田 ひろみ
 発 売 : 大修館書店
 定 価 : 2,400円+税

「忘れてならないことは、移動するジャンプにおいて、滞空中は水平方向の速度や方向は変えることができないということである。ジャンプする前に円軌道を描きながら水平方向に移動していても、滞空中は曲線移動にならない(引用者注:真上から見たらということ)」
(「第2章 回転以外の動き」より)

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補足:
バレエのメソッド(教育体系)には学ぶべき点がいろいろあると思う。
基本中の基本、5つのポジション(足の)はきっと「深い」のだろうなあ、と。

蛇足:
山岸凉子のバレエ漫画、面白いですよね。(って誰に向かって言ってるンだ?)
『アラベスク』は名作ですよ。本当に。