『スポーツ動作と身体のしくみ』

2010.1.5.

本書『スポーツ動作と身体のしくみ』の奥付を見ると、2010年1月1日初版発行とある。できたての本である。
出版元のナツメ社は一般の読書家にはなじみが薄いかも知れない。私はパソコン・コンピュータ関係の書籍の出版社だと思っていた。
ナツメ社のホームページを見ると、いろんなジャンルの実用書をラインアップしている。
スポーツ・トレーニング関係の本もあるが、実用書・ビジネス書を中心に手堅く市場に一角を占めているという印象を受ける。

本書の目次は、以下のとおりである。

PART 1 運動とカラダのしくみ 基礎知識
【SECTION 1 筋肉のはたらき】
【SECTION 2 関節のしくみと運動】
【SECTION 3 神経と筋肉の連係プレー】
【SECTION 4 筋力とパワー】
【SECTION 5 発育期のカラダの特徴】

PART 2 パーツ別 身体運動のしくみ
【SECTION 1 下半身の運動】
【SECTION 2 胴体の運動】
【SECTION 3 上半身の運動】

PART 3 スポーツでのよい動きの原則とコツ
【SECTION 1 作用・反作用の法則】
【SECTION 2 反動動作の意味】
【SECTION 3 振り込み動作の意味】
【SECTION 4 衝撃の吸収】
【SECTION 5 回転スピードのコントロール】
【SECTION 6 運動連鎖の原則】
各セクションが3から10前後の章に分かれ、ほとんどの章が見開きの2ページ(長い章では4〜5ページ)に収まるようにレイアウトされている。
本書のどこを開いても図や写真が無いページは見あたらない。モノクロのページも無い。ページをパラパラめくっただけでも、読みやすそうだと感じさせる。
題名の付け方や文字の大きさ・色の使い分け、図やグラフの色使い、それらの配置など、スポーツ関連本を専門とする他社のハウツー本とは異なるコンセプトが感じられる。
パソコン関係の書籍や実用書の市場で、競合他社と戦ってきたことで培われたノウハウが生かされているのだろう。

内容も入門書として十分以上のものである。
全体で約200ページあり、「PART1」が約110ページ、「PART2」と「PART3」がそれぞれ約40ページという構成(他は目次やコラムなど)である。

「PART 1」では、筋肉や腱の基本知識、筋肉の収縮方式(コンセントリック・エクセントリック・アイソメトリック)、ストレッチ・ショートニング・サイクル、速筋と遅筋の特徴、靱帯や軟骨の役割、運動神経の働き、「パワー」という語の意味、人体の関節におけるテコの原理、体重と筋力の関係、成長期の青少年のトレーニングの禁忌事項(タブー)、休養の意義などが、豊富な図版の助けを借りて、わかりやすく簡潔に示されている。

「PART 2」では、身体運動を理解する上で重要なパーツをピックアップし、CGで作製した骨格図をふんだんに使ってその構造や働きを説明する。骨盤、股関節、大腿骨、膝関節、足首、背骨と脊柱起立筋、呼吸運動のしくみ、腹筋の役割、肩甲骨の働き、前腕部の尺骨と橈骨などである。

「PART 3」では、作用・反作用法則の意義、その法則に沿った動き方のコツ、手足やバット・ラケットなどの回転スピードのコントロール、高速動作を生み出す運動連鎖などが説明されている。

やはり、作用・反作用の法則を理解することは、人体(動物)の運動をより深く理解するために重要だと思う。
ニュートンの運動の3法則(慣性の法則・運動の法則・作用反作用の法則)については、書籍やネットで確認していただく(当サイトではこちら)ということで、説明を省略。

ここでは、本書の「PART 3」−「SECTION 2 反動動作の意味」−「2 ジャンプ前のしゃがみ込み動作の意味」で使われている「力積(りきせき)」という言葉を補足したい。
物理学の法則に、静止した物体を動かして大きな速度を得るためには、物体に加える力とその力を加える時間を掛けた値を大きくすればいい、というものがあります。力とその力が作用する時間の掛け算です。この掛け算の値を「力積」といいます。
この説明を跳び上がる動作に適用すると、「力積」を大きくする(高く跳ぶ)には、力を強くする(筋力を強化する)か、力を加える時間を長くする(床を押す時間を長くする)ことが必要だということである。
しゃがみ込み動作は、床を押す時間を長くすることで「力積」を大きくしているのである。

また、しゃがみ込み動作で重要なのは、跳び上がるために働く筋肉が事前に活動を始めるという点である。つまり、落下する身体を支えるために、跳ぶときに働く筋肉がエクセントリック収縮(筋肉が伸ばされながら力を発揮すること)をし、その状態からコンセントリック収縮(筋肉が縮みながら力を発揮すること)へ転換する。このほうが筋力の発揮(その立ち上がり)がスムーズになる。さらに、しゃがみ込み動作でエクセントリック収縮する筋肉の腱も引き伸ばされ、直後の跳ぶ動作で腱の弾性エネルギーを利用することが可能となる。
次の章の「PART 3」−「SECTION 2 反動動作の意味」−「3 バックスイングや「ため」の意味」で、準備動作と主動作の関連性がさらに詳しく説明されている。

ついでに、高く跳ぶためのコツをひとつ紹介したい。
それは、跳ぶときに腕を振り上げることである。腕を上方に持ち上げると、下方に反作用力が生じ、床を押す力がより強くなるのだ。
以前ご紹介した『やさしいダンスの物理学』(この本についてはこちら)によると、「ばらつきはかなりあったものの、腕を使うことによってジャンプの高さが平均25%増加した」そうである。
(高く跳びたい方は、腕の振り上げ方やタイミングを研究してみてはいかがだろうか)

著者は、「中学生と高校生のスポーツ選手」を対象として本書を書いたという。
同時に「大学生やそれ以上のレベルの選手、そしてスポーツ選手を子どもにもつご両親やコーチ、学校の先生」にも読んでもらいたいという。
私もおすすめしたい。
ぜひ、書店で手にとって見ていただきたい。


スポーツ動作と身体のしくみ (アスリートとして知っておきたい)
『スポーツ動作と身体のしくみ』
 著 者 : 長谷川 裕
 発 行 : ナツメ社
 定 価 : 1,500円+税

(成長期のトレーニング過多の弊害について述べた後)思春前期の成長過程にある小・中学生にとっては、筋力トレーニングがよいかどうかを議論する前に、「大人と同じようにトレーニングしなければ強くならない(上達しない)という考えをやめること」が大切です。そして、そのスポーツに必要な正しい動きや、さまざまな身のこなし、バランスなどを発達させるための全身の筋肉と関節をフルに使って行う変化にとんだ運動課題に取り組むことが重要です」
(コラム「大人と同じトレーニングだと傷害を起こすことも 」より)

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補足:
本書の参考文献に挙げられている『目でみる動きの解剖学』(ロルフ・ヴィルヘード著、大修館書店)の「6章 スポーツの力学」もいいと思う。
腕を動かすときに体幹部に生じる力(反作用)を示した図、腕や脚単体の重心位置や全体重に対する相対重量を示した図など、参考になる。