『ヨーガのための解剖学』

2010.8.8.

これは本ではなくDVDである。
アメリカで制作されたDVDだが、日本語字幕が付いているので見るのに問題はないと思う。

題名にあるとおりヨガのDVDだが、ヨガのポーズを教えるDVDではない。
これは、ヨガの初心者向けの教材ではなく、ヨガの指導者やすでに何年もヨガに取り組んでいる上級者向けの教材である。
("Yoga"は、“ヨーガ”と表記する方が実際の発音に近いが、本稿では一般の言い方に合わせて“ヨガ”と表記する)

ヨガを続けていると、徐々に筋肉のこわばりが解けてきて関節がのびのびと動かせるようになってくる(と思われる。私はヨガ教室の生徒ではないので、以下は推測が交じることをお断りしておく)。
そうして、いろいろなポーズがこなせるようになってきたときに、ある種の制約のために、自分のポーズに限界があることがわかってくる。これ以上脚が開けない、これ以上腕が挙がらない、これ以上背中が曲がらない、などなどである。
そのような制約を生じる理由は、各人の骨の形の差異である、という。
筋肉はすでに充分伸びるようになっていて、制約になっていない場合、骨と骨がぶつかってそれ以上は動かない状態になっている場合があるというのだ。

この教材では、骨の構造に起因する制約を「圧迫」(compression、コンプレッション)と呼ぶ。
例えば、股関節でいえば、骨盤の寛骨臼の深さ(浅さ)、大腿骨の大腿骨頭の大きさ、大腿骨頚部の長さ、大腿骨の大転子の形状などの差異によって、大腿骨の可動範囲に差異が生じるのである。

「圧迫」以外にも個人個人の差異が現れる要素がある。
「比率」(proportion、プロポーション)と「配置」(orientation、オリエンテーション)である。

「比率」は、例えば、頭部と上腕部の長さの比率、脊椎と腕(上腕+前腕)の長さの比率、脊椎と大腿骨の長さの比率などである。
「配置」は、体幹部に対して、腕や脚がどのように接続しているかの違いである。

「比率」の中の1節に「腕と胴体の比率」がある。
最初にアレックスという男性が正座をしてみせる。両腕をまっすぐに降ろすが、手は床に届かない。床とは15cmほど間隔がある。
この状態から両手を床につけ(背骨を曲げやや前傾することになる)、膝(および両脚)を持ち上げてみる。アレックスは相当の力を使うが、脚が一瞬浮いた直後に床に落ちてしまう。両脚を浮かせた状態を維持することはできない。
次にマークが同じことをして見せる。マークは腕が長く、正座した状態で背中を曲げることなく両手が床に付けられる(!)。正座の姿勢から両脚を浮かせることも簡単にできる。
この違いは、マークとアレックスの筋力の差ではない。腕の長さ(胴体との比率)の違いがパフォーマンスの差になるのである。
試しに、アレックスの手の下にブロックを置く。手と床との間をブロックで埋めることで、背中を曲げずに腕で身体を支えられるようにする。
こうすると、アレックスも容易に両脚を浮かせることができる。ブロックで腕の長さを補うことで、アレックスもマークと同様のパフォーマンスが行える。

ヨガといえば、どのカルチャーセンターにもスポーツクラブにも教室があり、定番の健康法というイメージである。解説本も多数出版されている。
しかし、そのヨガで身体を壊してしまう人がいるという。
理想のポーズを熱心に追求する余り、腱や靭帯などを痛めてしまうのである。
もっと脚を開きたいとか、もっと体幹部をねじりたいとか、もっと腕を挙げたい/ねじりたいとか思って練習しているうちに無理をしてしまうのだ。

この教材では、生徒さんの中から個性(身体的に)の目立つ人を選び、肩や股関節の可動範囲の違いを示す。示しながら、同じポーズが人によって様々な形になるのは当然なんだ、外見上のまねをするよりも大切なことがあるはずだと説明する。

実際には、ポーズの制限となる要素はさまざまで、それらが複雑に関連しあっていると思われる。
この教材では、やや「圧迫」(compression)を強調しすぎているような気もする。
ただ、そのへんは割りきって単純化し、わかりやすいように作っているのかもしれない。

このDVDは、解剖学的な側面から自分の身体や動きを見直したい人には、よい教材になると思う。
(ただし、やや高価ではあるが、、、)


YouTubeで本DVDの一部を見ることができる。

Anatomy for Yoga By Yogaworks(オープニング)

Anatomy for Yoga with Paul Grilley Clip 1(講義「肩と脊柱」の一部)

Anatomy for Yoga with Paul Grilley Trailer(予告編)



ヨーガのための解剖学 Anatomy for Yoga with Paul Grilley

『ヨーガのための解剖学』
 著 者 : ポール・グライリー
 字幕監修: 綿本 彰
 発 行 : 有限会社ヨガワークス
 定 価 : 7,500円+税

「ポーズは生きものだ。身体の作りや柔軟性が違うのに同じ形にする必要はない。下を向いた犬でも他のどんなポーズでも、教義を離れ有効性を追求すべきだ。誰もが同じだと仮定し、形の完全さを求めるのは意味がない。もっと真剣に分析すべきは、手足の位置などを変えた際にどんな感じがするかということだ。踵が床に付くかどうかは重要ではない。個人個人が自分に合ったポーズのバリエーションを探求することが大切なんだ」
(「概要−すべてのポーズは正しい」 より)

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蛇足:
ヨガのほうが、太極拳よりもポーズのバリエーションが豊富(寝る・座る・立つ・逆さに立つなどがある)なので、骨格の差から生じる障害発生の確率も太極拳より高いのではないだろうか。
それで、このようなDVDが作られたのだと思う。
何かのスポーツやヨガ、太極拳を始めたばかりの初心者の方は、骨と骨がぶつかる心配よりも萎縮している筋肉を伸ばすことをお考えください。