『健康太極拳エクササイズ』

2010.12.8.

昨今の健康志向のせいか、書店の本棚には必ず太極拳の本が置かれている。いろいろな出版社からいろいろな太極拳教室の先生が書いた本が出されている。そこに新たに参戦したのが本書『健康太極拳エクササイズ』である。

本書の特徴は、太極拳の套路(型)の解説ではなく、太極拳の動きをエクササイズとしてピックアップしたことである。個々の動作を手軽にチャレンジできるように編集したのが成功したのか、すでに重版が決定しているという。

「高齢化…生活習慣病…世の中に闊歩する健康志向、そんな環境のなか、厚生労働省がまとめたエクササイズ2006をはじめとした健康運動の指針といわれるもののなかに、武道・中国武術関連でいちばん多く(いや唯一といって良いほど)登場するのが、なにを隠そう太極拳なのです」
(冒頭の「健康太極拳エクササイズ」より)


今年の5月には、NHKの『アインシュタインの眼』という番組で太極拳が取り上げられ、簡化24式太極拳の編纂者、李天驥(りてんき)先生の娘である李徳芳(りとくほう)先生が解説者として出演されていた。
この番組では健康のために太極拳を練習している年配の方々が登場するという、世間の人が太極拳に抱く一般的なイメージ(=老人がゆっくり動く)にそったシーンの中に、楊進(NPO法人日本健康太極拳協会理事長)老師が太極拳の技で相手を飛ばす場面、別の太極拳の老師がスケートリンクの上で靴をすべらすことなくアナウンサーを押していく場面などが効果的に挿入されていた。

さて、本書を仔細に読んでいるとわかるのだが、ここに紹介されているエクササイズは、すべてが太極拳由来の動作というわけではない。
本格的に中国武術を学ぶ者が必ず練習する「武術基本功」や、武器術の一種である「鞭杆(べんがん)」から採用した動きも含まれている。

そこで、今回は、太極拳についてはあえて解説を控え、太極拳以外の動作について補足情報を提供しようと考えた。
読者の便宜のために(なるかどうかはわからないが)、それらをピックアップしてみよう。
(なお、この解説は私が勝手に行なうものであり、著者の本来の意図とは異なる可能性があることをお断りしておく)

「武術基本功」由来の動作
その12(P.44) 肝心要の腰と肩 ←「圧肩」と「圧腿」
その13(P.48) 「クロスステップ」で軸を作る ←「歇歩(けっぽ)」
その15(P.56) 「拍脚」 ←「拍脚(パイジャオ)」
        「内回し」 ←「裏合腿(りごうたい)」
        「外回し」 ←「外擺腿(がいはいたい)」
その18(P.68) 足回し ←「掃腿(そうたい)」

<参考動画>
wushu basics retro - part I
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=MpJ2vGoxqoA
(圧腿:0:00〜0:08、外擺腿:0:33〜0:39、裏合腿:0:40〜0:47、掃腿:1:03〜1:15)

wushu basics retro - part II
http://www.youtube.com/watch?v=i7cq5H8xeBQ
(歇歩:0:47〜0:52)

「練功十八法」由来の動作
その16(P.60) 「膝回し」 ←「左右転膝」
        「腰回し」 ←「叉腰旋転」
その17(P.64) 上体ケアの基本「首回し」 ←「頸項争力」

<参考動画>
Lian gong 1a serie exercicios 1 a 6 (Lian gong=練功)
http://www.youtube.com/watch?v=HqGIG-WQm2M
(頸項争力:0:19〜1:29)

Lian gong 2a serie exercicios 7 a 12
http://www.youtube.com/watch?v=0K2QrDGr-ME
(叉腰旋転:2:21〜4:05)

Lian gong 3a serie exercicios 13 a18
http://www.youtube.com/watch?v=dmu4I9O2uig
(左右転膝:0:06〜1:29)

「鞭杆」由来の動作
その20(P.76) 棒を使って肩腰エクササイズ1
その21(P.80) 棒を使って肩腰エクササイズ2
その22(P.84) 棒を使って肩腰エクササイズ3

<参考動画>
ズバリそのものの動画は見つからなかったので、下記をご覧あれ。

山西鞭杆(毛明春老師)
http://www.youtube.com/watch?v=CLnjEMw4-QQ

太極鞭杆(毛明春老師)
http://www.youtube.com/watch?v=Zxt9dlZg68A


その他の動作
その19(P.72) 縦軸回転性能をアップ ←「扣歩(こうほ)」「擺歩(はいほ)」八卦掌・太極拳ほか

<参考動画>
こちらは、八卦掌をご覧あれ。

八卦掌(張宏梅選手)
http://www.youtube.com/watch?v=RmksXukkUd8


太極拳エクササイズの動作は、太極拳そのものではないし、練功十八法そのものでもない。
本来、太極拳の套路(型)は分割できるものではない。いったん動き始めたら、最後までがひとつながりの動きなのである。動きはゆっくりだが、止まることはない。
ひとつの型(定式)から次の型へ移っていく過程の動作にも妙味がある。

太極拳エクササイズで興味が深まった方には、ぜひ太極拳そのものにチャレンジしていただきたいと思う。



健康太極拳エクササイズ
『健康太極拳エクササイズ』
 著 者: 雨宮隆太・橋逸郎
 監 修: 楊 進
 発 売: ベースボール・マガジン社
 定 価: 1,300円+税

「太極拳は中腰で動くことが基本です。この姿勢は下肢筋のエキセントリック収縮によって支えられるものです。エキセントリック収縮は他の筋活動様式より強い筋力を発揮でき、老化による筋力減少が少ないという特性があります。ただし、発揮筋力が強いため故障を誘発しやすいのも事実。太極拳はゆっくりと確かめながら動くことで、エキセントリック収縮の特性をうまく発揮しながら安全に利用することができます」
(「太極拳エクササイズの特徴」より)

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補足1:
その14(P.52) 肩甲帯と肩関節の機能強化は、出典がわからなっかたので書けませんでした。

補足2:
鞭杆由来のエクササイズは、鞭杆協会の教室で実際に行われているものです。鞭杆という武術に関心のある方は、鞭杆協会のホームページ(http://biangan.com/)をご覧ください。

注:
本書の説明文に1個所、誤りがあります。
P.84の下段、棒回しの説明ですが、「A後ろ・内回転」の説明文が、「C前・内回転」の説明文と同じです。Aのほうが後ろ回しの説明になっていません。
Aの動作は、棒を背中側で@と反対方向に回す動作です。