『マネジメント』

2011.2.11.

昨年の暮れ、ふと思った。『もしドラ』読んでみようかな、と。
どちらかと言えば、あの表紙を敬遠して手に取ることもなかったのに、なぜか気が変わった。
『もしドラ』すなわち『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という長いタイトルの青春小説である。

書籍流通の大手TOHAN(トーハン)の集計では、2010年年間ベストセラー総合第1位という大ベストセラーである。
どこの本屋でも平積みしているので、本屋の前を通るだけの人でも表紙は目にしていることだろう。この人気を受けてNHKがアニメ化し、3月中旬から総合テレビで放映される。すでにマンガ版が「スーパージャンプ」(集英社)に連載されていて、映画化も決まっている。もはや書籍の枠を飛び出している。
『もしドラ』公式サイトはこちら)

で、『もしドラ』を読み終わってみると、なんだか物足りない。
やっぱりドラッカーの『マネジメント』そのものを読んでみないといけないかな〜と、まんまとダイヤモンド社の戦略にはまってしまった。
正直なところ、『もしドラ』のストーリーについては特にコメントはない。
私が『もしドラ』を読んで印象に残ったのはドラッカーの言葉だった。
私が『もしドラ』に感じた魅力は、すなわち、ドラッカーの言葉の魅力だった。

おそらく、『もしドラ』を一大ベストセラーに押し上げた力は、ドラッカーの言葉がもつ力である。

「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。事業は、社名や定款や設立趣意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である」
(『マネジメント』「3 事業は何か」より)


この前の節「2 企業とは何か」で、ドラッカーは「企業の目的は利潤である」という考え方を否定する。
利益を上げることを否定しているのではない。企業にとって利潤は「目的ではなく条件である」という。
企業=営利組織ではない!というのだ。
また、こうも言う「利益とは原因ではなく結果である」と。企業がその活動を継続するために「利益」は必要不可欠であるが、「利益」は目的でもなく原因でもない。

「企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造することである」
(「2 企業とは何か」より)


こうして、次の問いかけは「顧客は誰か」となり、「顧客はどこにいるか」「顧客は何を買うか」と続く。

ドラッカーの主張に説得力を感じるのは、その考察が人間の心理的側面にまで踏み込んでいるからだろう。
例えば、ほとんどのマネジメントが「苦境に陥ったときにしか「われわれの事業は何か」を問わない」という。この問いは「常に行わなければならない」とドラッカーは言う。

「成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。新しい現実をつくりだす。新しい問題をつくりだす。「そうして幸せに暮らしました」で終わるのは、おとぎ話だけである」
(「3 事業は何か」より)


ドラッカーは同じ主旨のことを別の節でも述べている。

「成長するには、トップが自らの役割、行動、他者との関係を変える意志と能力を持つ必要がある。言うは易く行うは難い。変化すべき人あるいは人たちとは、多くの場合功績のあった人たちである。成功を収めたまさにそのとき、その成功をもたらした行動を捨て、それまでの習慣を捨てるよう要求される」
(「43 成長のマネジメント」より)


トップマネジメントへの要求は厳しい。
トップマネジメントは、事業の目的を考え、組織全体の規範を定め、組織を維持し、次のトップマネジメントを育て、外部の組織や人々との交流を深め、重大な危機に際しては自ら出動しなければならない。
トップマネジメントは「一人ではなくチームによる」仕事である。なぜなら、

「トップマネジメントの役割が、課題としては常に存在していながら仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、トップマネジメントの役割が多様な能力と性格を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする」
(「37 トップマネジメントの役割」より)


実は『もしドラ』の本家『マネジメント』の売れ行きもすごい。同じくTOHANの集計では、昨年の総合ランキングで第12位である。あの『日本人の知らない日本語(2)』(第13位)を上回っている。
(ちなみに、もうひとつ上の第11位はマイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』である)

著者のP・F・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)は、1909年11月にオーストリアのウィーンで生まれ、2005年11月に亡くなった。
1914年、ドラッカーが4歳のとき第一次世界大戦が始まった。
1933年、ナチス支配下のドイツを出て、イギリスのロンドンに移住する。1937年に結婚し、アメリカに移住する。
経営学の古典と言われる『現代の経営』(1954年)は世界で500万部、日本だけで100万部という大ベストセラーだという。
同じ時代に生きた多くの財界人、政治家、研究者、思想家がドラッカーと同じ現実に立ち会っていたはずである。
なぜ、ドラッカーはこれほどの影響力をもつマネジメント理論を確立できたのか。
などと考え出すと、ドラッカーの別の著作も読みたくなってしまう。
(ますますダイヤモンド社の戦略にはまっていく)

「組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。天才に頼ることはできない。(中略)凡人から強みを引き出し、他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決定する」
(「26 組織の精神」より)


実際に読んでみると難解な理屈を並べた本ではなく、具体的な成功事例・失敗例なども紹介されており、文章の力もあって退屈しなかった。ぜひ読んでみていただきたい。


マネジメント 『マネジメント』【エッセンシャル版】
 著 者: P・F・ドラッカー
 訳 者: 上田 惇生
 発 売: ダイヤモンド社
 定 価: 2,000円+税

「複数の人間が協力して、意志を疎通させつつ多様な課題を同時に遂行する必要が出てきたとき、組織はマネジメントを必要とする。マネジメントを欠くとき、組織は管理不能となり、計画は実行に移されなくなる。(中略)たとえ製品が優れ、従業員が有能かつ献身的であっても、また、ボスがいかに偉大な力と魅力を持っていても、組織は、マネジメントという骨格を持つように変身しないかぎり、失敗を重ね、停滞し、坂を下りはじめる」
(「20 マネジメントの必要性」より)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』
 著 者: 岩崎 夏海
 発 売: ダイヤモンド社
 定 価: 1,600円+税

「このアイデアは、それから四年という歳月を経て、こうして「小説」という形で実を結ぶこととなった。その間には色んなできごとがあったのだけれど、ここでは特に、印象深かった二つのことがらについて記したい。一つは、このアイデアを初めて公にしたのはぼくのブログでだったということ。この本は、そのブログを見てくださった出版社の編集者の方が、「小説にしませんか?」と声をかけてくれたことによって生まれた」
(「あとがき」より)

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補足1:
TOHANの「2010年 年間ベストセラー」はこちらのページでどうぞ。

補足2:
ダイヤモンド社のドラッカーのページはこちら
上方のメニューにある「history ドラッカーと社会史」をクリックすると詳細な年表が見られます。