『感覚器の進化』

2011.7.11.

昔、昔、はるか大昔のこと、脊椎動物の御先祖様には「頭頂眼」と呼ばれる第三の眼があった。
それは頭のてっぺんにあって、水底で暮らす御先祖様たちは頭頂眼で上方の獲物や敵を見ていた。

「しかし三畳紀(約2億4200万年前〜2億800万年前)以降、頭頂眼はほとんどの動物で次第に退化してしまう。頭頂眼がどのような理由で退化したかは、はっきりしていない」
(『感覚器の進化』「第2章 視覚器」より)


現在、頭頂眼が見られるのは、ヤツメウナギ類やトカゲ類の一部に限られる。これらの動物の頭頂部は皮膚の一部の色素が欠如していたり、やや陥没して透明度が高くなっていたりしていて、その奥に小さな眼、頭頂眼が隠れている。
実は頭頂眼は視覚器としては「貧弱な構造」をしていて、ものを見る能力はなく光の増減を感知していると考えられている。

もちろん、人間(ヒト)には頭頂眼はない。ないのだが、頭頂眼由来の“ある器官”が脳の中に存在する。

「頭頂眼の元になる眼は左右1対となって発生する。しかし間脳胞の天井部分は左右の幅が狭いので、眼が大きくなるにしたがって横に並ぶことができなくなり、前後に配列するようになる。この2つの眼のうち、頭頂部に近く、光を受けやすい位置にあるほうが頭頂眼となり、もう一方は光を十分に受けられないため、「松果体(しょうかたい)」という内分泌器官となった」
(「第2章 視覚器」より)


松果体といえば、ホルモンを分泌する器官として、さまざまな健康情報に名前が登場する。
松果体は昼はセロトニンを分泌し、夜はメラトニンを分泌する。一般には、動物は昼に活動して夜になると眠るのは、松果体の活動(概日リズム)によるものと考えられている。
その大元は“頭頂眼”という視覚器だったのだ。

続いて、味覚。
味覚を感じるのは「味蕾(みらい)」という感覚器である。
人間(ヒト)の成人では、味蕾は舌・口蓋・喉頭蓋に分布している。「成人では」と書いたのは。味蕾の数は年をとるに従って減少していくからだ。成人の味蕾の数は乳幼児期の約半分だという。

「発生4ヶ月のヒト胎児では、味蕾は舌だけでなく、歯肉、頬の粘膜、口唇、口蓋、咽頭、喉頭蓋、さらに食道上部までと、内臓の一部にまで広がっている」
(「第3章 味覚器」より)


つまり、子供(や乳児)のほうが味に敏感なのだ。子供に好き嫌いが多いのは「味蕾が多いことが原因」のひとつと考えられている。
「大人の味」などという感覚は、実は、単なる味覚の感度低下という可能性がおおいにある。
とくに「塩味に対する感度が低下する」とのことで、老人が塩辛いものを好むようになるのは、感度低下と言ってよさそうだ。

また、味蕾は舌にあるものというのもヒトの成人を基準にした固定観念で、コイやナマズでは味蕾が体表に分布している。
ナマズの場合、約20万個の味蕾をもち(多くの魚類では200個程度)、その90%は体表、とくにヒゲに密集して分布している。
視覚が機能しない濁った水中でも、味覚によってエサとなる小魚を探すことができるのである。

そして、嗅覚。
人間(ヒト)にとっての匂いは、主にファッションとか清潔感の問題であることが多い。
しかし、他の動物では、個体の生存、種の存続に重要な役割を果たしている。
フェロモンという匂い(臭い)物質がその代表例である。両棲類・爬虫類および哺乳類の一部では、フェロモンが性別や生殖、縄張り、仲間の認知などに関する情報を伝える媒体となっている。

なかでも、ミツバチ・アリ・シロアリなどの昆虫が「社会体制」を維持するために使うフェロモンは極めて重要な「社会的」役割を担っている。
例えば、ハチの世界では、1匹のメスだけが「女王」となり、他のメスはすべて「はたらき」バチとなる。

「女王となったメスは、大顎腺(だいがくせん)から「女王物質」というフェロモンを分泌する。このフェロモンが作用すると、卵巣の発育が抑制されるため、はたらきバチとなったメスたちはメスとしての繁殖機能をもっていないのだ」
(「第4章 嗅覚器」より)


女王バチが分泌するフェロモンによって、他のメスの卵巣は機能しなくなってしまうのである。
(オスは巣別れの時期が来るまで生まれもしない。。。)
アリもシロアリも同様である。
ということは、昆虫の「社会性」というものは、哺乳類や人類の「社会性」とは全く異質のものなのである。
サルの群れではリーダーの地位の奪い合いが行われるが、ハチやアリの社会では有りえないことである。
ハチやアリの社会では生まれながらにして階級が定まっていて、変革の余地はいっさい無いのだ。


感覚器の進化 『感覚器の進化』ブルーバックス
 著 者: 岩堀 修明
 発 売: 講談社
 定 価: 980円+税

「感覚からの情報が脳に伝えられることにより生ずる印象が「感覚」である。感覚に、強さや時間的経過などが加味されると「知覚」になる。さらに知覚が過去の経験や学習に基づいて解釈されて「認知」となる」
(第1章「感覚とは何か」より)

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