『もの食う人びと』

生半可な感想文など受け付けてもらえない、そんな気がする。

コーヒーに塩やバターを入れて飲む話や、バンコクの缶詰工場の話、ケバプ(焼き物・トルコ料理)の話など「食」に関するエピソードだけではなく、現地の政治情勢や難民キャンプの実態、現地人のエイズ感染率と死亡率、ロシア海軍の新兵が栄養失調で死亡するという謎、ピナトゥボ山の大噴火で山を捨てざるを得なかったアエタ族、イギリスから呼び戻され宮殿(実は普通の家屋)に住むアフリカの王様、ミンダナオ島での日本軍残留兵の悲劇などなど、次々に繰り出される情報に圧倒される。初めて読んだとき、一気に引きずり込まれてしまった。言葉に換えられない強烈な印象が残る。とにかく「心が痛む」、そんな本だ。

バングラデシュのダッカ駅前広場、バングラデシュ最南端の難民キャンプ、人魚(ジュゴン)の肉が売られているというマニラ南西のブスアンガ島、ギネスブックが世界一大きいと認定したタイのレストラン(五千席!)、八千ヵ所のフォー(うどん)屋があるハノイ、旧東ドイツのブランデンブルク刑務所、ネオナチの迫害にあいながらトルコ人二万数千人が住むベルリンのクロイツベルク地区、ポーランドの炭坑、周囲をすべて砲撃で吹き飛ばされたクロアチアの民家、ザグレブ中心部の聖ステファン大寺院、アドリア海に漂うイワシ漁船、セルビアのコソボ州の山あいにある修道院、ウィーンの遊園地の大観覧車、ロシア海軍の食堂、チェルノブイリ原発から20キロ圏内のパリシェフ村、択捉(エトロフ)島最大の町クリーリスク、村民三百人のうち二十五人がエイズで死んだアフリカの村、韓国・青鶴洞の儒教寺院(ちなみに儒者は犬肉を食べてはいけないという)、元従軍慰安婦と待ち合わせたソウルの喫茶店、、、
(感想に代えて、著者がたどった場所を列記してみた)2002.07.10.

『もの食う人びと』

著 者:
辺見 庸
出版社:
角川書店(角川文庫)
定 価:
720円(税込)

「人は今、何をどう食べているのか、どれほど食えないのか…。飽食の国に苛立ち、 異境へと旅立った著者は、噛み、しゃぶる音をたぐり、紛争と飢餓線上の風景に入り 込み、ダッカの残飯からチェルノブイリの放射能汚染スープまで、食って、食って、 食いまくる。人びととの苛烈な「食」の交わりなしには果たしえなかった、ルポル タージュの豊潤にして劇的な革命。」
(同書ブックカバーより)


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