『構造医学』

「構造医学」とは耳慣れない言葉だが、著者の提唱する医学理論に基づく 医学である。
著者が伝えたいことを粗っぽく要約すると、自分は医学界の主流から外れては いるが、自分が提唱する理論とそれに基づく実践は成果を挙げており、自分が 発表した理論を無条件に批判する風潮があるが、既存の医学界でも徐々に採用 の動きがある、ということのようだ。 この本では、著者の各種理論が次々と紹介されているが、十分に整理されてい るとは言い難い。あれもこれも紹介したいという気持ちは伝わるが、各理論の 関連性がつかみにくいと思った。200ページほどの枚数では、全体像をわか りやすく伝えよというほうが無理かもしれないが、読後、消化不良という印象 が残る。
患者の立場からすれば医学、医療はひとつである。著者にはいろいろな思いが あるのだろうが、自分の業績が患者の役に立つという自信があるのなら、患者 のために、何とか既存の医学との融和を考えてほしいと思った。

第一章 構造医学への導入
構造医学では、生物は1Gという地球の重力場で生まれ、この重力場で反応し、 機能・構造を変化させてきた、という考え方を基本とする。
金属またはガラスでできた2個の物体が潤滑剤(ジェルや油)を介して接触し ているとき、その滑り具合を調べると、接触面に圧力がかかっている状態がよ く滑り、物体同士を引き離すような力がかかった状態だと滑りにくくなる。
これを関節で言えば、負荷(重力)がかかった状態が滑りやすく、牽引された 状態では滑りにくいということになる。著者の研究によれば、神経は生体内で 発生する圧迫には強く、牽引に対しては弱い。牽引による治療は問題が多い。

第二章 直立二足歩行
直立姿勢の維持は、神経を経由した筋肉の働きだけでは不可能で、体内の臓器 や液体成分の移動が寄与している。臓器が動く例としては、心臓の位置は仰向 きとうつ伏せでは前後に最大約6cm動いている。
姿勢に応じて臓器が動くということは、生活習慣や職業による固定的姿勢が臓 器に影響を与えるということである。
人間のような骨盤の形態になってはじめて直立歩行が可能になった。仙腸関節 の構造は二足歩行に適合している。仙腸関節は上体の荷重を軸で受ける軸受け 機構であり、構造医学ではウエイト・ベアリング(体重軸受け機構)、略して 「WB」と呼んでいる。
(歩行時の骨盤の動きについて詳細な説明があり、難解ながら面白い。また、 脊柱のカーブの重要性に関する詳細な解説と、心臓の形や血液循環に関する話 が興味深い)

第三章 顎関節の生物学的意味
頭部の構造自体に頭部の平衡状態を感知する仕組みがある。顎関節も平衡性の維持に関与している。
(上顎・下顎の協調運動に関して、極めて詳細な解説が展開されている)

第四章 生体内カンナ効果と交通事故の応力解析
カンナの刃を出すときは台の尻のほうを叩き、引っ込めるときは台の頭のほうを叩く。このようなカンナ効果が起こりやすいのが頭部およびそれに付随する 上位頸椎である。いわゆる「むち打ち」事故は、このカンナ効果によると考えられる。

第五章 生物と熱(生物熱機関の提唱)
人間には体温を上げることだけでなく、熱を捨てることが必要である。人間は息を吐くとき大量の熱を体外へ排出する。これがちょっとの間でも停滞すれば、 肺が炎症を起こす。
基礎代謝量とは、体温を適正温度域に保つために消費されるエネルギーである。人間の循環系は自動車のラジエーター(冷却装置)と同じ機能をもっている。

第六章 生理的局所冷却療法
生理的局所冷却療法では、水でザーッと洗って溶け出した状態の氷を使用する。 凍った氷だと凍傷を起こしてしまう。氷が溶け始めて一定時間溶け続けている 融点(摂氏零度)が重要である。これだと凍傷を起こすこともなく、氷が溶け て水になるまで、零度の状態が保てる。
病変組織周辺の局所を冷却すると、その部分から熱が奪われ、物質代謝が抑制 される。このため、局所では免疫力が低下するが同時に病変の進行も速度が鈍 る。全身の免疫力は変わらないため、冷却された病変組織に対する免疫力は相 対的に高まることになる。温める方法でも免疫力は高まるが、同時に病変組織 の代謝速度も増してしまう。
生理的局所冷却療法は、外傷や関節炎あるいはスポーツ障害といった範囲にと どまらず、内臓疾患・ガン・脳卒中などの脳障害にも有効である。
昔、津軽三味線の弾き手たちは、寒さで指がかじかんでいるときに、手を温め るのではなく、冷水に手を突っ込んだという。しばらくすると手がポカポカに 温かくなって指が動くようになる。ただし、これは反射性血管拡張という現象 であり、構造医学が提唱する「生理的冷却」とはメカニズムが異なる。
(なお、生鮮魚介類の保存・輸送の分野で生理零度の保存法が実用化されてい るとのことである)

第七章 思考まで影響を及ぼす重力
頭蓋骨の縫合関係からみると、頭頂からみて右回りに回すと縫合がゆるみ、左回りに回すと締まるという方向性をもっている。
片足立ちで、右足立ちのときは荷重が脳まで伝達して右脳が優位になり、左足立ちのときは左脳が優位になる。
腹ばい→高ばい→つかまり立ち→ヨチヨチ歩き→直立二足歩行という自然の成長過程をたどらないと、寛骨臼という股関節の骨盤側の関節面に異常が現れる ことがある。この臼蓋の形の異常と脳障害には深い関連性があり、たとえば、脳性麻痺児には股関節脱臼や臼蓋形成不全を伴っているケースがひじょうに多い。

第八章 生理歩行
構造医学では生理歩行を病気の予防・治療法として、歩ける患者すべてに指導している。
(生理歩行の動作要領と目的別に歩く速度が異なることの説明がある)
生理歩行の時間は約四〇分間としている。歩行時間が三〇分を超えないと効果がほとんどみられず、四〇分を超えると疲労を訴える人が急激に多くなるから である。
(スクワットに似た「WB体操」の説明もある)

「著者の紹介」より
・1954年熊本生まれ
・物理学者としてNASA(米国航空宇宙局)の高エネルギー研究に携わる。
・理学博士
・医学博士、PhD."Biomedical Science Doctor"
・日本構造医学研究所 所長
・構造医学研究財団 主幹
 など2002.09.08.

『構造医学』

著 者:
吉田 勧持
出版社:
産学社
定 価:
1,890円(税込)

「生物は一生を通じてこの重力の流れに応じて、活動し続けているようである。 そして、人類の構造や機構から見るかぎり、この活動がすべて停止した状態が 死であるはずである。(中略)この場の中で重力に応じているか否かで生理的か 非生理的かを判定し、疾病の診断や臨床に応用を試みたのが構造医学の発想である。」
(序章「「不断の動き」それが生命の本質」より)


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