『システムRENKI 
練気柔真法』

練気柔真法とは、武術の名前ではなく「人間の内的な能力の養成、開発に焦点を当てて作られた」心身トレーニングシステムの名称である。
練気柔真法については、『秘伝』という雑誌の記事や広告である程度知っていたが、この本で初めて詳細な理論を読むことができた。
実は、この本にはちょっと期待するものがあった。宣伝文で“66の実験ですべてがわかる”と謳っていたからだ。どんな実験かなぁ、と興味をもって発売を待っていた。

この本は全体的に見れば、練気柔真法で重視していることについて、よく整理された形で述べられていて、たいへん良い本だと思う。
心身のリラックス、伸筋主導、重力感覚の養成、重みの伝達、呼吸力など、太極拳を実践している者には欠かせないテーマが並んでいるし、ていねいに説明されている。
ただ、“実験”と言われているものについては、少々疑問を感じた。
私が考える「実験」とは、同じ条件下で同じ材料を同じ手順で操作すれば誰もが同じ結果が得られるというものだが、この本で“実験”として紹介されていることの多くは、著者のようにすでに十分に練気を習得している人にしか再現できないように思えるからである。
これは“実験”として説明されていることの内容に不満があるのではない。単に“実験”ということばに引っかかっているだけである。同じ内容について“実験”と書くのではなく、例えば“レッスン”、“ポイント”などと書いてあれば疑問は感じなかっただろう。
“66の実験ですべてがわかる”という宣伝文句は、実は、「練気を習得している人」にはすべてがわかる、という意味だと思う。一般読者に“すべてがわかる”ような「実験」ではなかったというのが私の不満なのだ。
(本当はもうひとつ不満があって、後半になると似たような“実験”が多くなってきて、66というのが水増しされた数字のように思われてくるのだが、、、)

繰り返しになるが、“実験”ということばの使い方や宣伝の仕方には疑問を感じる。しかし、全体としては良い本だと思っている。

第1章 練気柔真法の概要
練気柔真法のルーツは、陳式太極拳と合気道である。
練気柔真法では、人間の身体は自然の法則に適応したときに最大の機能を発揮すると考える。ここでいう「自然の法則」とは「重力」のことである。
練気柔真法の核となるのは、次の『四つの原理』である。
1.心身のリラックス(重力感覚の養成)
2.身体中心の確保
3.合理的身体運動(伸筋主導と重みの伝達)
4.呼吸力と気のパワー(意識とエネルギーの集中)

第2章 心身のリラックス[重力感覚の養成]
心身をリラックスさせたければ、自分の身体の「重さ」を意識し、「重さの感覚(重力感覚)」を養成する。
一般的に、現代人の「普通」の状態はリラックスしているのではなく、緊張状態にある。
人間の腕は片方でおよそ4キログラム(ビール大瓶6本分←下記注を参照)あり、頭部と両腕をあわせると約13キログラムもの重さを支え続けていることになる。そのために、無意識に肩周辺の筋肉を必要以上に収縮させ、肩こりなどの緊張を起こしやすくしている。
重力と調和した身体(養体)をつくるためのポイントは、「沈肩墜肘」「含胸抜背」「鬆腰緩腹(しょうようかんぷく)」「円‘月当’(えんとう)」である。

第3章 身体中心の確保
人間の直立姿勢における理想的な「重心」の位置は、「丹田」(臍下の下腹部にあたるところ)である。
回転運動を行うときには、回転軸となる地面との接点と、自分の「重心」が垂直線上に一致したとき、最も安定した回転運動が行える。
<物体が安定するための3条件>
1)基底面が広い。
2)重心が低い。
3)重い。
そして、水分が7割にもなる人間の場合、リラックス度(=脱力度)が高ければ「重心」は安定し、外部からの力に対しても、身体の弾性によって柔軟な対応が可能になる。
軸を意識し、姿勢を整えることが重要である。

第4章 合理的身体運動[伸筋主導]
重心から波及する力である「中心力」と伸筋による「伸長運動」の力の流れは、どちらも身体の中心から末端に向かって伸びるように連動しながら伝わる。一方、屈筋による「屈曲運動」の力の流れは、身体の末端から中心に向かって縮むように伝わる。
伸筋主導の身体づくりのポイントは、次のとおり。
1)イメージを使う。
2)呼吸を使う。
3)指を張り伸ばす。
4)物を持つときは、手先の力を抜いて包み込むように持つ。
5)伸筋群を意識する。

第5章 合理的身体運動[重みの伝達]
人間の関節は第3種てこ(=力点が支点と作用点の間にあるてこ)である。その特徴は、力点での小さな動きが末端部の作用点では大きな動きになることであり、作用点での小さな抵抗に対して大きな力が必要となることである。
第3種てこは、作用点で大きな力を生み出すことには不向きで、作用点で大きな動きを生み出すことに向いている。
自然の法則と調和した力を体得するためには、「力=筋力」から「力=重力」への発想の転換が必要である。重力によって生じる身体の「重み」(圧力)を力とする。
「筋収縮」が大きいと重力への抵抗が増し、「重み」は減少する。一方、「筋収縮」が小さいと重力と調和し、「重み」が増す。
人体=流体とイメージし、筋肉は感覚器官(=「重み」を伝える導線のようなもの)と考える。
(引用者注:作用点で大きな力を生み出すことに向いているのは、第2種てこ=作用点が支点と力点の間にあるてこである。ちなみに、第1種てこは、支点が作用点と力点の間にある)

第6章 呼吸力と気のパワー[呼吸力]
「呼吸」は力の発揮を助ける媒体である。
脱力した状態で力を発揮するためには、吐く息を身体運動にうまく連動させることが大切である。

第7章 呼吸力と気のパワー[気のパワー]
「気」の成分は、遠赤外線(=光)、低周波(=音)、電磁気の三つである。
「気のパワー」をアップさせるには、「血流」が重要である。「血流」が増すと、手の温度が上がり「遠赤外線」が強くなる。また、血液内の圧力が増して振動を起こし、この振動が「低周波音」になる。さらに、マイナスの電荷をもった赤血球が速く流れ、それによって電流が流れたときと同じ状態が生じ、「電磁気」が発生する。
意識的に呼吸法を行うことで「血流」がコントロールできる。

第8章 練気柔真法と「メンタルトレーニング」[養心]
練気における「メンタルトレーニング」のポイントは、心身の一体性に基づいて、身体を通して心に働きかける点にある。
心は思考、感情などさまざまな「思い」をつくりだす。心の緊張を心で解くことは難しい。
「身体感覚」が鋭敏になると「思い」が薄まり、「思い」が強まると逆に「身体感覚」が鈍化してしまうという関係がある。「身体感覚」に意識が集中すれば、その間は心の囚われが自分の意識から外れてしまう。
「重力感覚」が身体に定着すればするほど「身体感覚」に意識を集中しやすくなり、それに伴って心の緊張も着実に薄まってゆく。2002.12.23. (改訂)2003.01.19.


注:この「ビール大瓶6本分」の重さには、瓶の重さが含まれていないようである。 中身が入ったビール瓶の重さは約1100gなので、腕の重さを4kgとすると、中身入りのビール瓶に換算すると約3.6本となる。本書での計算は、瓶の重さ(480g)を除いたビールだけの重さ(約630g)で換算して、「6本分」としたと思われる。(細かいことだが、、、)

『システムRENKI 練気柔真法』

著 者:
宮崎 剛史
出版社:
BABジャパン
定 価:
1,995円(税込)

「本書で伝えたいことを一言で言うと「“発想の転換”によって身体能力の限界を超える可能性が生まれる」ということです。そして“発想の転換”を起こすためのキーワードとなるのが「自然の法則と調和する」ということです。(中略)例えば、私たちが持っている身体的な固定観念として、「人間は固体である」「筋力が大きいほど強い力が出せる」というものがあります。(中略)しかし、人間の身体能力の限界も、ある意味ではこのような固定観念によってつくられているともいえるのです」
(「はじめに」より)


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