『図説 徒手体操』附則

1. イラストの例 - 「図説 徒手体操」


<その場上方跳び>


<平均台>


<腕振動体側転>

感想:体操を理解している著者自身がイラストも描ける。まったく理想的である。



2. 目次 - 「図説 徒手体操」

総説
1.徒手体操の生態 …………… 3
  A.体操のかぶっている皮膜 …………… 4
  B.指導する立場 …………… 5
  C.美しく,楽しい体操 …………… 7
  D.体操の普及 …………… 9
  E.いろいろな体操 …………… 10
2.徒手体操の歴史 …………… 12
  A.東洋における徒手体操の序曲 …………… 12
  B.西洋における徒手体操の萌芽 …………… 14
  C.新しい体操のぼっ興 …………… 18
3.体操はなぜ必要か …………… 21
  生活・スポーツ・体操 …………… 24
4.徒手体操のもつ特質 …………… 33
  A.柔軟性を確保する …………… 33
  B.整姿美容に役立つ …………… 34
  C.疲労の回復に役立つ …………… 34
  D.きょう正的効果がある …………… 35
  E.準備補助の運動としての効果 …………… 36
5.体づくりと動きづくり …………… 37
6.体操は体のどこを動かすか …………… 41
7.体操は体をどう動かすか …………… 44
8.体操はどんな順序で行なうか …………… 45
9.体操を行なう上のいろいろな要領 …………… 46

基本姿勢
  基本姿勢 …………… 53
直立姿勢,休めの姿勢の各種,手肩・手腰・手頭の姿勢の各種,手上挙・腕前屈姿勢の各種,直立姿勢から足出の各種,ひざつき姿勢のとり方と立ち方,ひざつき姿勢の種類と立ち方,片ひざ立て姿勢の各種,安座姿勢のとり方と立ち方,正座姿勢の各種,ひざつき腕立伏臥の各種,伏臥姿勢のとり方,長座(伸膝)姿勢のとり方,長座姿勢の各種,腰かけ姿勢の各種,ひざ立て姿勢のとり方と種類,そん居姿勢の各種,仰臥姿勢の各種

配列
  配列 …………… 67
自由配列,半円配列と円形配列,ある列を基準にした配列,縦隊からの開列,横隊からの開列

脚の運動
1.脚の説明と運動のねらい …………… 75
  A.脚の機能 …………… 75
  B.脚の構造 …………… 79
2.運動 …………… 84
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 84
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 98
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 100
  D.二人組で行なう運動 …………… 103

くびの運動
1.くびの説明と運動のねらい …………… 107
  A.頭と姿勢 …………… 110
  B.くびの運動の内容 …………… 112
  C.くびの構造と機能 …………… 113
  D.くびと姿勢(運動)との関係 …………… 117
  E.要領 …………… 119
2.運動 …………… 121
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 121
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 125
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 127
  D.二人組で行なう運動 …………… 128
  E.器械を使って行なう運動 …………… 130

腕の運動
1.腕の説明と運動のねらい …………… 133
  A.腕の構造 …………… 135
  B.腕の筋肉 …………… 137
2.運動 …………… 141
  A.腕をあげる運動 …………… 141
  B.腕を伸ばす運動 …………… 147
  C.腕を振動させる運動 …………… 153
  D.腕を側開する運動 …………… 158
  E.腕を回旋する運動 …………… 161

胸の運動
1.胸の説明と運動のねらい …………… 167
2.運動 …………… 173
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 173
  B.座臥姿勢で行なう運動 …………… 179
  C.二人組で行なう運動 …………… 182
  D.器械を使って行なう運動 …………… 184

体側の運動
1.体側の説明と運動のねらい …………… 189
  A.要領 …………… 190
  B.体を側屈する場合の陥りやすい欠点 …………… 191
2.運動 …………… 193
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 193
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 200
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 202
  D.二人組で行なう運動 …………… 205
  E.器械を使って行なう運動 …………… 206

胴体の運動
1.胴体の説明と運動のねらい …………… 211
2.運動 …………… 216
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 216
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 231
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 233
  D.二人組で行なう運動 …………… 236
  E.器械を使って行なう運動 …………… 238

背の運動
1.背の説明と運動のねらい …………… 241
  A.背の運動の区分 …………… 242
  B.背の筋肉 …………… 243
2.運動 …………… 248
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 248
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 257
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 258
  D.器械を使って行なう運動 …………… 260
  E.二人組で行なう運動 …………… 261

腹の運動
1.腹の説明と運動のねらい …………… 265
  A.腹の運動はなぜ必要か …………… 265
  B.腹の運動の内容 …………… 267
  C.腹の運動の概括 …………… 267
  D.腹の筋肉 …………… 268
2.運動 …………… 270
  A.立位(たって)で行なう運動 …………… 270
  B.座位(すわって)で行なう運動 …………… 274
  C.臥位(ねて)で行なう運動 …………… 275
  D.二人組で行なう運動 …………… 285
  E.器械を使って行なう運動 …………… 290

跳躍運動
1.跳躍の性格 …………… 295
2.運動 …………… 296
  A.両脚とびの各種 …………… 296
  B.片脚とびの各種 …………… 303
  C.二人組で行なう運動 …………… 313

平均運動
1.平均運動のねらい …………… 317
2.運動 …………… 319
  A.地床で行なう運動 …………… 319
  B.平均台を使って行なう運動 …………… 327
  C.二人組で行なう平均運動 …………… 330
  D.倒立による平均運動 …………… 333

呼吸運動
1.呼吸の性格 …………… 337
2.運動 …………… 339



3. 体操はなぜ必要か(抜粋) - 「図説 徒手体操」



(前略)
まず四足で匍匐の生活をしていた時には四つ足はちょうど家の柱にも相当し脊柱は棟木(梁)であったのが直立歩行するようになってからは図のように棟が柱の性格をおびるようになってしまった。このためつぎ目(椎骨)の多い柱はひずみや軽い脱臼をおこして各種の病気の原因を作っている。元来内臓は四つばいの状態の時に都合よくかつ楽に活動し得るように出来ているのであるが,人間のように立って歩きはじめると不都合な事が発生する。



腹壁という棚の上に要領よく置かれておったものであるが,自然の女神が立てと命令しないうちに人間が立ち上がってしまったために,横の位置に置かれた内臓は縦につみ重なり,ズリ落ちるのを防ぐために壁にかけて,ぶら下げた状態になってしまった。いわば棚に置かれたリックサックが壁にかけられた状態になったとでもいうことが出来よう。今まで前脚と後脚という四本の柱の間に横に支えられていた脊柱は縦の位置になり,それに上体の重量がかかるようになった。
 このように胴体を地面に水平な形から引力に抗して地面に垂直な位置にまでもって来たことにより,各種の障害が続出しはじめたのである。いわく脊柱わん曲,いわく内臓下垂,子宮後屈等々,妊娠の際よく起こる「つわり」等は立位による子宮の地位の不安定がその一つの誘因であるといわれる。痔(じ)のようなものも人間独特の病気である。人間の場合肛門は胴体の最下部にあり,匍匐している動物の場合は入口(口)と出口(肛門)の位置は同じ身体の最も高い所にあり血圧も低く血液の循環もよく支障をきたさないが,人間の場合には下積の最低部となり圧迫されうっ血し,座るということの多い日常生活と相俟って痔になりやすいのである。又胃,膀胱,子宮のように容積や重量に大きな変化をきたすものは,腹壁という棚に水平の位置に置かれた場合と壁にかけた水枕のような状態に置かれた場合としては,身体が振動したような場合に大きな相違が生じてくる。すなわち臓器自身がもつ働きのほかに振動に対する位置の確保をはからねばならないし負担は大変である。「親が死んでも食やすみ」等の言葉が生まれるように,食後の安静の必要は長い生活経験から生まれてくるのである。通勤者に消化器系統の弱い者が多いのは前屈姿勢からくる腹部の圧迫にもよるが,食後の安静時間をもてない近代生活のあわただしさからの原因も大きいのである。近頃流行しているオートバイを利用する人たちが腹に広いバンドをしめて腹部の固定を図りながらもその振動のために内臓に障害を起こしやすいのもこの同じ理由によるものである。徳川時代,将軍の奥方が妊娠するとある時期に豆ひろいを儀式的に行なわせた。豆を沢山座敷にまきちらし,奥女中にまじって奥方が豆を拾ったのであるが,これは匍匐することによって子宮を中心にした内臓の位置の安定を図ったものであろう。
 さて以上のように人間が直立して生活しているという事だけで、すでにその姿勢に対する補償として,何らかの方法が講ぜられなければならないのである。
 すなわち体操が必要であるという最も根元的な理由の一つはここにもあるといってよかろう。
(後略)
註: 漢字や仮名の使い方、改行などはほぼ原文のままである。



4. 徒手体操のもつ特質(抜粋) - 「図説 徒手体操」



 人が戸や障子をあけて出入する場合,自分の体が楽に通れるだけあけて出入するのが普通であるが,元来戸や障子はその幅だけは開けることが出来るように作られているので,時々戸を全開し,本来開くことが出来るように作られているところまで開いて掃除をする必要がある。それでないと普段使わないところがさびついたり,ほこりがたまったりして,だんだん戸の開く範囲がせばめられてガタピシした,たてつけの悪い戸になってくる。こうなると不便であるばかりでなく,無理にあけたてするので早くいたみやすくなるのである。この場合戸や障子のあけたてを人体の関節の可動性の範囲と考えると,体操と日常生活における体の動かし方との説明がよくつくのである。スポーツでも,作業でも,ある目的のために体を動かすのでその目的が達せられる最小限度に動かせばよいので,それ以上に動かすことは力の不経済であり要領が悪い動作といわなければならない。ところがこれだけでは人間が本来具有する可動範囲まで体が動かないので,徒手体操においては体を動かす事そのものに目的を置き,人間が本来具有する可動性に基き身体各部の極限まで動かして運動領域をひろげ,失われがちな柔軟性の確保をはかるのである。人は幼児期には非常に柔軟な体をもっているが,だんだん体が成長すると力はついてくるが柔軟さが失われる。そこで力をつけながら柔軟させ確保してゆこうとする。そこに体操のもつ使命の一つがある。

補足: 図の左側の短い矢印の上の文字は「日常の動作」、右側の長い矢印の上の文字は「体操の動作」である。

註: 漢字や仮名の使い方、改行などはすべて原文のままである。




5. くびの運動(抜粋) - 「図説 徒手体操」

(前略)
餞別(はなむけ)という言葉は旅に出る人のために,親戚のものや隣人や友人がその無事を祈りながら馬に御馳走してやって馬の鼻ずらを出発する方向に向けてやることからはじまった言葉であり,手綱は方向を指示するために鼻についているし,牛の鼻かんも又同様な役目をはたしている。要するに進行しようとする方向や,向きを変えようとする場合に,その方向に頭を向けることは一応の要領であろう。
(中略)
胸鎖乳突筋が弱い人は,あごが前に出て,胸がくぼんで円背(猫背)になり,ひざがゆるんだ無気力型の姿勢になりがちである。静的な姿勢のみに限らず,動的な姿勢,特にスポーツ時における場合も,この筋が弱く,あごの出た姿勢は不利な場合が多い。相撲,拳闘,陸上等をみても,あごの出た姿勢が非常に不利であるし,この道の初心者や,あるいは疲れた場合に,この姿勢に陥りやすいのをみてもわかる。



(中略)
面白いことは,作業上又は風俗習慣から必然的に立派な姿勢をとらざるを得ない人たちがある。それは伊豆の大島のおとめたちや京都の大原女などのように,頭上に物をのせて運搬する人たちである。彼女らのように頭上に物をのせるためには,あごをひいて頭を脊柱の上にもってこなければならぬし,背中は腰磐の上にもってこなければならないのである。人が物を運搬するのに頭上を用いる方法は,体の中心に物体の重さがくるもので,ものによっては能率的な運び方であると思うし,よい姿勢をとらざるを得ないというところが作業姿勢として特異的であり面白い。もちろん青少年の頭上に重いものを負荷させることが,体育的に好ましくないことはいうまでもないが,たとえば,小さな豆ぶくろのようなものを頭上にのせて体育的な扱いをすることは,効果のあることである。前述の日常生活で頭上運搬する人達も重いものをのせるために脊柱の生理的わん曲がなくなってしまって平背になっているものもある。これは勿論このましくない姿勢であることはいうまでもない。
(後略)



6. 序 - 「図説 徒手体操」

☆この本はごく基本的な体操のみちしるべのつもりで書いた本である。新しい体操やよい体操,楽しい体操がこれからどんどん日本のあちらこちらに誕生してくると思う。そのためのあしがかりや応用の素材にこの本がなればよいと思うのである。したがって材料だけの本であるからそのつもりで読んでいただき度いと思う。近いうちに必ずここから出発した新しく楽しい本を書いてみたい。

☆体操が対象にするのは勿論人体そのものであるがその体を,ただ生理解剖学的な見地からながめるだけでなく,人類の永い歴史を創り,くぐりぬけて来たそうした大切な体としてながめ度い。踊ったり,歌ったり,彫刻をしたり,戦争をしたり,泣いたり,笑ったりを何万年かくりかえして来た,先祖からの手であり脚であり顔なのである。

☆体操という小父さんは今まで無理に威厳をつけすぎたり,強圧的であったようだ。もっとも,いつもその背後に修身の先生や軍服がチラついていた関係もある。体操の小父さんは裃(かみしも)をぬいで自分一人の裸体になり,生徒達は古いけれど立派な「青春の喜びの衣装」(グーツムーツの言葉)を着なければならない。

☆体操は入学の時に着て卒業の時にぬいであと一生着ることのない学生服のようなものであってはならない。体操は肌着のように,いつでも着て居られるものがよい。見せるための借衣装や,見せる為だけの体操は自分のものにはならないからである。

☆日本の体操競技の方は世界の最高水準に達したが徒手体操の方は研究する人や愛好者もスポーツ程多くない。特に学校体育の領域では何かやっかいなけむたい存在のようである。これは多分に食わず嫌い的な考え方がわざわいしていると思う。体操に近づいて体操をよく知ること,体操をもっとつき合いよいものにする文化財にする努力を指導者はやらなければならないと思う。

補足:グーツムーツ(Johann Christian Friedrich Gutsmuths, 1759~1839)とは、“ドイツ体操の父”とも呼ばれる、ドイツの体操教育の研究者の名前である。
代表的な著作として、1793年に出版された「青少年のための体操」がある。
あるホームページによれば、「古代ギリシャの体操とJ=J.ルソーの自然主義の教育思想の影響があった」という。

註: 漢字や仮名の使い方、記号(☆)など、すべて原文のままである。




『図説 徒手体操 』

著 者:
浜田 靖一
出版社:
新思潮社(最新 図説 保健・体育シリーズ)
定 価:
2,500円(1968年当時)


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