『二酸化炭素温暖化説の崩壊』

『バカの壁』という本がベストセラーになったことをご記憶だろうか。
今から7年前、2003年のことだ。400万部を超える大ベストセラーとなり、新語・流行語大賞を受賞した。
この本の冒頭で、著書の養老孟司が地球温暖化のことに触れていた。

「最近、私は林野庁と環境省の懇談会に出席しました。(中略)そこで出された答申の書き出しは、「CO2増加による地球温暖化によって次のようなことが起こる」となっていました。私は「これは“CO2増加によると推測される”という風に書き直して下さい」と注文をつけた。するとたちまち官僚から反論があった。「国際会議で世界の科学者の八割が、炭酸ガスが原因だと認めています」と言う。しかし、科学は多数決ではないのです」
(「第一章「バカの壁」とは何か」より)


また、養老孟司は地球温暖化の原因が炭酸ガスだという説について、「複雑系の考え方でいけば、そもそもこんな単純な推論が可能なのかということにも疑問がある」とも述べていた。

私はこの記述がずっと頭に残っていて、CO2増加=地球温暖化説には議論の余地があると感じていた。
先月、新聞の広告欄で本書『二酸化炭素温暖化説の崩壊』のタイトルと著者の名前を見たときに、すぐに買おうと思ったのはそのせいである。

かつて、チェルノブイリの原発事故(1986年4月)の後、『危険な話』(八月書館、後に新潮文庫)という本がベストセラーとなった。その著者が広瀬隆だった。
私は『危険な話』を読み、その後も広瀬隆の本を2冊ほど読んでいた。

広瀬隆は大量の文献から注目すべき事実を拾い出し、つなぎ合わせ、新たな現実を浮かび上がらせる手法が得意で、読むのが止まらなくなる。
歯に衣着せぬ表現もあり、独断・偏見との批判もあることは承知しているが、広瀬隆が拾い上げて並べる事実には無視できない重みがある。
広瀬隆の言うとおりと思うか、別の解釈をするかは読者次第である。

皆さんは、クライメートゲート(Climategate)事件をご存知だろうか。
2009年の暮れ、欧米で発覚した大スキャンダルだが、日本ではほとんど報道されなかった。私も(私は?)本書を読むまで不覚にも知らなかった。

IPCCという団体がある。正式名は「気候変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate Change)という。 この団体、CO2増加=地球温暖化説を世界的に広めてきた。2007年にはノーベル平和賞を受賞している。気候変動に関する活動が評価されたのである。
ところが、この団体が発表していたデータは意図的に加工されたものだったのだ。

2009年11月17日、イギリスのイーストアングリア大学の気候研究ユニット(CRU、Climate Research Unit)のサーバーから、1000通以上のメールと3000点以上の文書がアメリカの複数のサイトに流出した。

「日本の科学誌「化学」2010年3月号と5月号で、東京大学の渡辺正教授が詳細にこの事件を解析しているので、図書館で読まれたい。事件の要点を記す。気温データの捏造を指令してきたこのCRUという機関は、単なるイギリスのグループではなく、気候変動の研究に従事する世界的な学者たちの司令塔であり、NASAのゴダード宇宙研究所と共に世界中のデータを集めて解析してきた。つまりCO2温暖化説を広めてきたIPCCの理論とデータが、巨大な科学的「嘘」によって作られていたことが明らかになったのだ。それで、かつてニクソン大統領が辞任に追いこまれたウォーターゲート事件と気候(クライメート)をもじって、「クライメートゲート(Climategate)」と呼ばれるようになった」
(「第一章 二酸化炭素温暖化論が地球を破壊する」より)


かつて、IPCCの報告書(2001年1月の第三次評価報告書)に「ホッケー・スティック」と呼ばれる図が掲載された。
過去1000年間の地球気温の変化を示すグラフで、地球の気温が20世紀に入ってから急上昇していることを示していた。20世紀までが平坦(スティックの長い柄の部分)で、20世紀から急上昇(スティックの先端部分)する形から「ホッケー・スティック」と呼ばれるようになった。
しかし、この図はIPCCの2007年の第四次評価報告書では削除されていた。各方面からの批判に耐えられなかったのだろう。
そして、クライメートゲート事件で、このグラフが捏造されたものだったことが発覚したのだ。
本書の指摘で興味深いのは、1990年のIPCC第一次評価報告書に掲載された、過去1000年の地球の気温変化のグラフである。西暦1200年前後の中世の温暖期、1600年~1700年頃の小氷期がわかるグラフになっている。つまり地球の気温はCO2の排出量が増加する前(20世紀以前)から変化していることがわかるのである。
この11年後の第三次評価報告書で「ホッケー・スティック」のグラフを発表する(それも、わざわざデータを加工してまで)とは、いったいIPCCに何が起こったのだろうか。

そして、なぜ日本の報道機関はクライメートゲート事件を報道しなかったのか。

そもそも地球は温暖化しているのか、寒冷化しているのか。ここから考えなければならない。

「(三冊の本を紹介した後に)そのタイトル通り、一九七〇年代から、氷河期到来説が盛んに語られていたのである。根本順吉は、当時の気象庁長期予報担当官として有名なぴか一の人物で、その頃は、現在と違って、氷河期がどれほどこわいかという警告が主流であった。なぜかと言えば、一九六〇~七〇年代にかけて、地球全土を寒冷期が襲ったからである。CO2が猛烈に排出され、急増したにもかかわらず……」
(「第一章 二酸化炭素温暖化論が地球を破壊する」より)


上記の文に続けて、広瀬隆は、一九六〇~七〇年代にかけての欧米や日本での寒冷化による被害を列挙している。この部分をお読みになったら、ああ、そう言えば、と思い出す方もいらっしゃることだろう。
(本書では地球の温暖化に疑問を抱かせる、他のデータも挙げられている)

地球の気温変化には様々な要因が作用している。CO2の増加も作用しているかもしれないが、もっと大きな要因がいくつもありそうである。それについても広瀬隆は具体的に列挙している。
例えば、太陽の活動(黒点の増減に見られる)、地球の公転軌道の変化、地球の地軸の傾きの変化、地軸の歳差運動(首振り運動)、火山の大規模な噴火による火山灰の拡散、エルニーニョ現象、ラニーニャ現象など。
温室効果に限って言っても、CO2よりも水蒸気の影響が大きいと言う。

「【図42】のCO2増加グラフは、ほとんどの人が目にしてきただろう。このグラフを見るとCO2がとてつもなく増加したように感じるが、基線がゼロではないのである。ゼロを基点にしてグラフを描くと【図43】になる。細部を拡大して、世界中をおどしてきたトリックの最たるものである。単位はppm、つまり百万分の一である。熱力学を知っていれば、過去半世紀で、空気中の分子の一万粒のうち三粒が四粒に近づいて、それほど地球が激変すると考えることがおかしいと、すぐに気づくべきである」
(「第一章 二酸化炭素温暖化論が地球を破壊する」より)
(上記の【図42】に相当する図はこちら(気象庁ホームページ:二酸化炭素濃度の経年変化)で見ることができる(一番上のグラフ)。確かに基線はゼロではない)


今後の研究がどのような方向に向かうにせよ、CO2を悪者に仕立て、CO2の増加が諸悪の根源とするような安直な考え方は変えなければならない。

ヒートアイランド現象は、CO2の増加とは別の問題である。
地球温暖化の防止=CO2の排出量削減=原子力発電所の増設という図式は成り立たない。
原子力発電所の排水は海水の温度上昇を招いている(生態系を破壊する)。
オール電化は地球の環境改善に貢献しない。
。。。

日本のマスコミは、今からでも、地球温暖化に関して、多くの科学者に取材し、客観的な報道に努めなければならない。

本書『二酸化炭素温暖化説の崩壊』で語られているのは暗い話ばかりではない。
ガス・コンバインドサイクルという方式を取り入れた最新の火力発電所は、発電時のエネルギー変換効率の改善を実現しているという。

「東京電力の川崎発電所では、エネルギー変換効率が世界最高レベルの59%を実現した。つまり原発の二倍だから、排熱が二分の一になる。【図69】の横浜や川崎は日本の工業地帯で、しかも首都圏にあるので送電ロスはない。安全だから、新潟県や福島県に原発をつくるような迷惑をかけずにすむ」
(「第二章 都市化と原発の膨大な排熱」より)


また、燃料電池(最近「エネファーム」と呼ばれている)の可能性についても解説されている。

新書で、価格も手頃、テーマは重いが、面白い科学読物と思って気軽に手にとってみていただきたい。2010.11.7.


補足:
このサイトでもちょくちょくウィキペディア(Wikipedia)を参照させてもらっているが、このクラメートゲート事件とかCO2増加=地球温暖化説については、あてにならないようである。
クラメートゲート事件は、ウィキペディアではなぜか「気候研究ユニット・メール流出事件」というタイトルでページが組まれている。「クライメートゲート」という呼び方は「地球温暖化に対する懐疑論者」により用いられるそうである。
しかし、なぜ、わざわざそんな説明を書くのか?

広瀬隆によると「インターネット辞書として多用されているWikipediaが、CO2温暖化説の広告塔だったことも、現在では強く批判を浴びている」とある。
実際、ウィキペディアに書かれている内容を見ると、「広告塔」と言われても仕方がないと思う。

蛇足:
広瀬隆が紹介した三冊の本とは以下の通り。
『大氷河期 日本人は生き残れるか』日下実男/朝日ソノラマ 1976年12月
『太陽黒点が語る文明史 「小氷河期」と近代の成立』桜井邦朋/中公新書 1987年7月
『氷河期へ向う地球 異常気象からの警告』根元順吉/風涛社 1973年1月

『二酸化炭素温暖化説の崩壊』

著 者:
広瀬 隆
出版社:
集英社(集英社新書)
定 価:
700円+税

「明けて二〇〇九年正月に、会員二〇〇〇人を擁する日本のエネルギー・資源学会が新春eメール討論を開いた結果では、IPCC参加者(のちに紹介する国立環境研究所・江守正多)以外の四人は、やはりCO2による地球温暖化説を全員が否定したのだ。(中略)彼らがCO2温暖化説はまったくの誤りで、自然な変化であると断定しているのに、なぜその言葉が、新聞とテレビで大きく報じられないのか。
この四人の考えは、私の考えと合致するものと、合致しないものがある。その違いを議論し合い、みなで共に考えることが、科学に取り組む基本精神である。これまでまったくそれがおこなわれてこなかったことが、最大最悪の問題である」
(「第一章 二酸化炭素温暖化論が地球を破壊する 」より)


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