7.力学をかじる

「空気も音もない無重力の宇宙空間。スペースシャトルが飛行中です。 修理道具をたくさん抱えて、一人の宇宙飛行士が船外活動をしています。 ところが大変、飛行士がシャトルから離れてしまいました。「こりゃいけない。 早く戻らなきゃ」運の悪いことに、このときに限って宇宙遊泳用の噴射 ガス装置も、命綱も忘れていました。このままでは少しずつシャトルから 離れていき、永久に宇宙をさまようことになってしまう。あわてている宇宙 飛行士は、どうしたらシャトルに戻ることができるでしょうか」

武術に限らず、あらゆるスポーツ動作をよりよく理解するには、力学の基本 が不可欠だと思います。特に『作用・反作用の法則』は力の運用を知るために 大切な法則ではないでしょうか。受験勉強ではありませんから、原則を知って いれば充分でしょう。ただ、自分の身体感覚と『法則』を結びつけることは 受験勉強より難しいかもしれません。いえ、野口体操で言うように自分の 「体に貞く(きく)」ようにすれば簡単なことかもしれません。
本書はスポーツ動作のメカニズムを物理の基本に立ち返って説明する試みです。
(☆印に続く)


クイズ1 AとBはどちらが重いでしょう?


クイズ2 AとBはどちらが先にゴールに着くでしょう?


クイズ3 AとBはどちらが速く転がるでしょう?


(☆続き)著者は都立高校の先生で、イラストをふんだんに使って、わかりやすい解説を 心がけています。率直なところ、ベストの本とは言いませんが、類書が見あたらない 現状では選択の余地はありません。
物理の基本法則をどのように体の動きに適用させるのか、その例がたくさん 出てきますから、自分が取り組んでいる動きを力学的に考えるためのヒントに なることでしょう。
例えば、「バンザイをすると速くしゃがめる」とあります。試してみてください。 なるほどと思いませんか。これは両手を上に挙げる動作の反作用によります。

【ニュートンの運動の三法則】
1.第一法則・慣性の法則
静止または一様な直線運動をする物体は、力が作用しない限り、その状態を持続する。
2.第二法則・運動の法則
物体の運動量の変化はこれに働く力の向きに起こり、その力の大きさに比例する。
3.第三法則・作用反作用の法則
二つの物体が互いに力を及ぼしあうときには、これらの力は常に大きさが等しく、向きが反対である。

ところで、冒頭の引用文の宇宙飛行士ですが、どうしたらよいのでしょうか。
答えは、「身に付けている修理道具を、スペースシャトルとは逆の方向に力 いっぱい放り出す」だそうです。作用・反作用の法則の応用ですね。皆さんも 宇宙旅行に備えて、忘れないでおきましょう。 なお、クイズ1~3の答えは、このページの下にあります。 2002.10.12.  (改訂)2002.11.24.

『スポーツ上達の力学』

著 者:
八木 一正
出版社:
大河出版
定 価:
1,407円(税込)

「以上のことから共通していえるのは、ボールをできるだけ遠くに飛ばすには、 体のどこかにボールの飛ぶ方向とは逆向きの動きが必ずあるということです。 つまり、その動きがないと体全体のバランスが悪く、力も入らない。そしてこ の種の動きは、スポーツの動作のなかで最も本質的なものなのです。」
(「プロローグ」より)



《クイズの答え》
1.Bのほうが重いです。 シーソーを思い出してください。体重の重い人と軽い人でバランスをとろうと したら、重い人が支点の近くに移動します。 ところで、人間の重心はどこにあるでしょうか。それは固定されたものでしょうか。 腕を縮めているときと伸ばしているときとでは、重心は同じ位置にあるのでしょうか。 剣を持って手を伸ばしたらどうなるでしょうか。

2.Bのほうが先に着きます。
Bは下り坂で加速した分を上り坂で減速します。ただ、その間の平坦部を加速 されたスピードで走るため、その分だけAより早く着きます。

3.Bのほうが速く転がります。
手足を広げて回転するのと、手足を縮めて回転するのとでは、どちらが速く回転 しますか。


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