27.重力に負けない

名著『スーパーボディを読む』の中ほどに次のような一節があります。

「いくら必死で練習しても、よほどのことがない限り練習の時間は日常の雑事に費やす時間より短い」

何らかのスポーツや運動の練習を続けていると、このようなことを考えるようになると思います。

『フェルデンクライス・メソッド WALKING』は、歩くことの見直しを図りながら、運動能力の開発について独自の視点を提供する本です。
私たちの日常生活というと、大部分が歩くことで成り立っています。通勤・通学といえば、当然歩くことが含まれますし、家にいるということも家の中を歩いていることと言えます。

「重力という絶えることのない力の下では、身体を上手に使わないと、重力に引き下ろされて身体が歪んでしまい、健康状態にも悪影響を及ぼします。姿勢を崩すと、歩く時の快適さを失い、さらに腕・足・体幹の各々が硬くなってしまうため、何をやるにしても、「楽にできる」という感覚までも失ってしまうのです」

しばらく前から、この稿を起こすためにいくつかの本を開いていました。それとは別に、ちょうど昨日から通勤電車では美輪明宏さんの本を読み始めました。すると、、、

「二十歳ぐらいからやっておかなきゃいけないことは、背骨を縮ませないようにする習慣です。(中略)年をとるとどんどん小さくなるでしょう。あれは背骨が頭の重みで圧迫されて、縮んで曲がっていくのです」
(『人生ノート』)


驚きました。問題意識としては同じことです。対策はそれぞれ別の方法ですが。
美輪明宏さんは、簡潔に表現しています。

「毎日の生活の中で、尾てい骨から頭のてっぺんまでをまっすぐに上へ伸ばすクセをつける」
「(呼吸法の説明に続いて)ですから背筋はまっすぐにしておくことです。そして力をスーッと抜いていく」
(など、いずれも『人生ノート』から)


フェルデンクライス・メソッドでもこのような説明は行いますが、レッスンはもっと具体的です。実際に何種類もの小さな動作を行い、自分自身と向き合い、自身のなかに起こっている変化を感じることから始めます。
そして、ただ手を動かしているだけに思えた動作が、背中や首、脚部にまで影響を与えること(また同時に、手のほうが影響を受けていること)を知るようになります。

人間の(そして動物たちの)運動に関するほとんどの制御は、意識に登らないところで遂行されています。私たちは(人間は)いろんな練習によって、運動能力の向上を目指します。フェルデンクライス・メソッドの方法は、普段の動き方に「ちょっとした変化」を与えることで、「ニューロ・ネットの適応システムによる決まった動作パターンを少し揺り動かして」みるという方法です。
ですから、『フェルデンクライス・メソッド WALKING』に掲載されているレッスンの写真を見ても、それらがどのように歩き方の改善に繋がるのか見えにくいかもしれません。

「こういった身体操作のバリエーションで身体が曲がること、回転すること、捻ることなどが楽になるにつれ、骨や関節の角度の相互関係が改善されて、余裕が得られ、立ったとき背が自然に高くなるのです」

そう、実際に背が高くなるということを私は体験しました。
先日、久々にフェルデンクライス・メソッドのATMレッスン(Awareness Through Movement)を受けました。そのとき、レッスン前、レッスン中(3回)、レッスン後に、壁に貼った方眼紙に印を付けて、身長をチェックしました。
伸びる人、伸び縮みする人、人によって経過はいろいろでしたが、私は最大で5mmほど背が伸びていました。

重力に負けない動き方、姿勢が確かにあるのです。

締めはまた『スーパーボディを読む』からです。

「身体のプロのみならずすべての人が、(中略)日常の動きから見直す必要がある。といっても、これはまったく辛いことではなく、むしろ楽に動けるようになるのだから、かなり楽しい作業である」 2006.11.12.

注:
テレビで拝見する美輪明宏さんはいつも背筋が真っ直ぐですよね。バラエティ番組などでも姿勢を崩しているのを見たことがないように思います。
もちろん、美輪明宏さんの本『人生ノート』は、運動関連の本ではありません。「序文」を読むとぶっ飛びますよ。

『フェルデンクライス・メソッドWALKING』

著 者:
ジェームズ・アマディオ
出版社:
橋本 辰幸
定 価:
2,940円(税込)

「(レッスンの動作は)バランスを保てる範囲内での小さな変動でなければなりません。つまり、バランスを崩すほどの動作であっては効果的とはいえないのです。さらに、ゆっくり行うと、動作に伴う感覚が豊かに得られるので、運動神経系の再調整が可能となります。ところが、変化というものがあまりに速いと、再調整する余裕がなく、今までの習慣の再現に陥ってしまうのです」
(「新たなニューロネット(神経回路)への扉を開く」より)


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