『ピアニストならだれでも知って
おきたい「からだ」のこと』
本書の題名を見れば、このサイトにちょくちょく訪れてくださる方は『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』を思い出すことだろう。
人間の身体の構造について正確な知識をもち、誤った身体イメージによる無理な運動が身体を傷つけることのないようにしよう、という主旨の本である。
(この考え方、「ボディ・マッピング」については、稽古雑感ページの「9.体の地図作り」で簡単に紹介している)
原題は本書が「What Every Pianist Needs to Know about the Body」、『音楽家ならだれでも~』のほうが「What Every Musician Needs to Know about the Body」である。
しかし、盗用ではない。『ピアニストならだれでも~』は、『音楽家ならだれでも~』の正統な続編だ。
著者は、『音楽家ならだれでも~』の著者バーバラ・コナブルの教えを受けた人である。イラストはほとんど『音楽家ならだれでも~』のものをそのまま使っている。ぱらぱら見ただけの印象では、さほど変わり映えしないが、説明の文章が大幅に増えている。
あなたは腕の関節4個の名前が言えるだろうか。3個までしか言えない方はぜひこれら2作のいずれかを読んでほしい。
ピアニスト(やオルガニスト)を対象に書かれた本ではあるが、バランスのとれた姿勢に関する具体的な説明や腕・手・指の使い方など、太極拳愛好者や他のスポーツ愛好者にとっても大切なことが書かれている。
以下、そのごく一部を紹介する。
筋肉を表層筋、深層筋と分類することがある。インナーマッスルという言葉が流行ったこともあった。
本書の119ページに背中の筋肉の図が3つ掲載されている。1つは脊椎や肋骨に付着する深層の筋肉の図、1つは同じように脊椎や肋骨、骨盤に付着するが、深層の筋肉より長く大きい中間層の筋肉の図、最後の1つは表層の筋肉の図である。
僧帽筋や広背筋、三角筋などの表層筋は大きくて力が強く、背中の筋肉として意識しやすいのだが、、、
「ジムで背中を鍛えるトレーニングをしたことがあるなら、それはこれらの表層の筋肉を鍛えていたということです。(中略)(これらの)エクササイズは、もちろん、背中を鍛えるためのものですが、すべて腕で行なうものです。言い換えると、腕を動かすことで背中を鍛えているのです」
これら表層の筋肉は、「背中にはあるものの」機能的には腕の筋肉である。同じことが胸の筋肉にも言える。
わたしたちは、姿勢を正そう(直そう、変えよう)とするときに、これら表層の筋肉を緊張させてはいないだろうか。腕を動かす筋肉を。
筋肉は関節をまたがって別々の骨に付着する。そうでなければ関節を動かすことはできない。腕を動かす筋肉は腕と体幹部に付着する。脚を動かす筋肉は脚と体幹部に付着する。
では、手の指を動かす筋肉はどこにあるのだろうか。
指をできる限り速く開いたり閉じたり(パーとグーの繰り返し)すると、疲れてくる場所がある。どこがだるくなってくるだろうか。
手の指にある(あるいは手のひらにある?)と思われる方は、本書の「第5章 筋肉のマッピング」の「手」の項を読んでほしい。
ピアニスト向けの本だけに、手の使い方については、詳細に説明されている。
「本書はワークブックであり、教科書ではありません」
著者は、本書を単に読むだけでなく、実際に「マッピング」すること、「積極的に身体に働きかける」ことを読者に望んでいる。
ぜひ、脳の中にバランスのためのボディ・マップや、腕や脚の動きのボディ・マップを作ってみていただきたい。
(目次)
序章
第1章 基本的な考え方
第2章 身体の構造をマッピングする
第3章 バランスの場所をマッピングする
第4章 腕と手をマッピングする
第5章 筋肉のマッピング
第6章 呼吸のマッピング
第7章 ピアノのマッピング
第8章 オルガニストのために
2007.1.14.
おまけ:
手の指を動かす筋肉の位置については、稽古雑感ページの「20.腱について知っている二、三の事柄」に少し書いています
『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』
- 著 者:
- トーマス・マーク、
ロバータ・ゲイリー + トム・マイルズ - 監 訳:
- 小野 ひとみ
- 訳 者:
- 古屋 晋一
- 出版社:
- 春秋社
- 定 価:
- 2,415円(税込)
「自由で、身体を傷めない演奏をするためには、身体と一体化することが必要です。すでに説明しましたが、身体にストレスのかかるような動きをするから、身体を傷めたり動きが不自由になったりするのです。ストレスのかかる動きは次の2つのどちらかまたは両方が原因で起こります。1)身体への気づきが失われている 2)身体の構造と動きが頭の中で間違ってマッピングされている。」
(「第1章 基本的な考え方」より)