25.受動筋力よこんにちは
(またまたタイトルをパクってしまいました。サガンさんごめんなさい)
「運動における筋力の使い方は、能動筋力と受動筋力という二つの面から見ることができる」
武術(あるいはスポーツ)の稽古をしていると、ある時には、もっと「力を抜け」と言われたり、別の時には、それでは「力が足りない」などと言われたりします。
じゃあどうしたらいいのよ、と(キレかけながら)疑問を感じる方も多いのではないかと(勝手に)想像しています。
「能動筋力とは、自分のほうから力の強さを意識的に決めて使う場合で、通常は力のイメージをもちながら発揮される筋力である。これに対し受動筋力とは、外部からの力に応じて力が自然に現れてくる場合で、通常は形のイメージをもちながら発揮される筋力である」
おそらく「力を抜け」と言う場合、その「力」は能動筋力を指しています。
逆に「力が足りない」と言う場合、その「力」は受動筋力を指しています。
(能動筋力と受動筋力に関する長い引用はこちら)
ゴルフの愛好者にとっても同様の課題があるようです。クラブのグリップは握るべきか、はたまた握らざるべきか、それともボールに当たる瞬間だけ握るのか。しかし、そんなに都合良く特定の瞬間だけ力が入れられるものでしょうか。
「上手な人のクラブヘッドのスピードは、腰や胴、肩などの大筋の収縮により発生した運動エネルギーを巧みに伝送して実現している。高速状態において手首の関節の筋力でさらに加速することは収縮速度と筋力の特性からみて困難である。実際にはインパクト近くでは、クラブに生じる速い回転運動によって、グリップ部の筋は逆に引き伸ばされるので、その抵抗力を小さくするためにもグリップの力は小さいほうがよいことになる」
『スポーツの達人になる方法』(読書遍歴ページの「『スポーツの達人になる方法』」で紹介しています)の小林先生は、グリップは「握るな」派です。しっかりとグリップすることで、クラブの回転にブレーキがかかるだけではなく、
「一般に、手や足の末端部に力を入れると、それより中枢に近い、肘や腰の関節は柔らかく滑らかな動きがしにくくなる」
体幹部の動きを阻害することにもなってしまうわけです。
小林先生はこの問題を次のような考え方で解決しました。
「「グリップをしっかりとする」とは、「グリップをしっかりとした形で握り、その形を崩さないようにスイングする」ことになる。このように、形のイメージでグリップをすると、受動筋力的な制御の働きで、柔らかくしっかりとしたグリップが可能となる」
野球のバットでも、テニスやバトミントンのラケットでも、剣道やフェンシングでも同様のことが言えるでしょう。
そして、これは道具を使うときだけのテーマではないはずです。
能動筋力を悪者にするつもりはありません。
能動筋力と受動筋力を適材適所で使い分ける、ということも運動スキルを考える上で大切なことではないでしょうか。
2006.5.31.
太極拳に関する補足:
太極拳においては、套路(とうろ、単練)と推手(すいしゅ、対練)は車軸の両輪であると言われます。套路では重力に対応する受動筋力の感覚を、推手ではそれに加えて相手の力に対応する受動筋力の感覚を学ぶのではないでしょうか。
『スポーツの達人になる方法』
- 著 者:
- 小林 一敏
- 出版社:
- オーム社出版局(テクノライフ選書)
- 定 価:
- 1,470円(税込)
「もし投球が腕の筋肉だけを使っているとすれば、生理学的な筋のパワー出力から計算すれば、競輪選手の太ももほどの筋肉が必要とされる。しかし、プロ野球の剛速球の選手は腕を力まないように、柔らかく使って投げている。つまり、ボールは腕の力で投げていないことになる。どこからどのようにパワーが流れてくるのか、これには非常に高度な問題が潜んでいる」
(「はじめに」より)
能動筋力と受動筋力
「この二つの筋力の使い方は、文字を読んでいるだけでは不十分で、次の方法で感覚として実感してみていただきたい」
「(前略)左手の親指と人差し指の先を付けて輪をつくる。この輪を引き離すように右手の親指と人差し指を輪の中に入れて広げてみて、この力の強弱により、輪をつくっている指の発揮している力を感覚的に計ってみる。初めに左手の輪を力を入れてつくる。この時の輪の力を右手で感じておく。当然自分の力を自分で計るのだから、両手の出す力を調節し合うことになる。どの程度かを感じておく。この場合、左手の輪をそのままにして右手を抜いてしまっても、左手には依然として力が入ったままであることを確かめておく」
「次に、今度は左手の輪の指先が接着剤でついてしまったというイメージをもつ。したがって、左手には力を入れている感じはない。この輪を前と同様に右手で広げようとしてみる。このとき左手には、力を入れているという努力感があまりないにもかかわらず、意外と強い力が出ているのが実感される。そして、右手を抜き取った瞬間、左手の輪は脱力されていることがわかるであろう。このように、努力感をあまり感じないまま、必要に応じた筋力がひとりでに発揮され、必要がなくなればひとりでに脱力されているような使い方ができる(後略)」
『スポーツの達人になる方法』
「1章 イメージのもち方は、筋力のコントロールの質を変える」より
(小林一敏著、オーム社出版局・テクノライフ選書)