『JUMP ATTACK』

なぁんだ、バスケも同じなんだ。

これで、ほとんど言い尽くしている気分だが、何がどう同じか以下に補足する。

本書は、ジャンプ力を強化するトレーニングを解説した本である。
著者は、マイケル・ジョーダン(米国プロ・バスケットボール[NBA]の有名選手)のパーソナル・トレーナーをしていたという凄腕のトレーナーだ。本書の末尾に収録されているインタビューによれば、マイケル・ジョーダンの垂直跳びを96cmから122cmまで伸ばしたというから驚く。既に高いレベルにある選手の跳躍力をさらに伸ばすとは、ただ事ではない。

では、どんな秘訣が書いてあるのだろうと思っていると、普通(このホームページの常連さんには)のことばかりである。

例えば、著者は、良い姿勢を崩さないことを繰り返して強調する。
良い姿勢、すなわち、「Perfect JUMP Form」とは、以下の要点からなる。

1.胴体を腹部で前屈させないで、膝を柔らかく使い、股関節で上に向かって弾き上げる。
2.試合中は垂直の姿勢を保つこと。そのための筋肉を鍛え、神経が正しい姿勢を保つ信号を送り続けるように脳を鍛える。
3.腕の振りを利用する。
4.着地はソフトに。着地のインパクトを和らげるために、足の裏を“転がす”ように使う。
バスケットも「立身中正」なのである。

また、ストレッチングを軽視してはいけない。
ストレッチングを重視する理由は、正確な柔軟運動だけでも垂直跳びの高さを伸ばす可能性があるからだと言う。(ストレッチングの注意点については、「16.ストレッチ考」でリストアップされていることとほぼ同じなのでこちらも参考にしてほしい)

筋力トレーニングを行う場合は、正しいフォームと速さを重視する。フォームが崩れるような負荷をかけてはいけない。トータルで何kg持ちあげられたかではなく、規定の時間に何回行えたかを測定する。長距離のランニングは垂直跳びを伸ばすには好ましくない。 (筋トレについては読書遍歴ページの「『使える筋肉、使えない筋肉』」、ストレッチ・ショートニング・サイクルについては稽古雑感ページの「20.腱について知っている二、三の事柄」を参照)

第5章後半の「12週間チャート」は、ストレッチとウエイト・トレーニング、ジャンプ・エクササイズを組み合わせた12週間分の計画表である。
計画表に書かれている個々のトレーニング方法(スクワット、レッグプレス、レッグエクステンションなどなどが多数)については、本書の第3章~第5章前半で説明されている。
(トレーニング中の食事や、栄養補助食品やサプリメントの摂取についても別途説明されている)

この「12週間チャート」が本書でもっとも重要な部分といえそうだ。各トレーニングの所要時間の設定とその組み合わせが、ジャンプ力の強化をもたらすのだろう。
しかし、この3か月にわたるメニューをこなすためには、肉体的な条件以上に、精神面での強さが必要となるはずだ。こうして、書籍という形で公開されたからといって、誰にでも再現が可能なことではない。こうしたハードなトレーニングの実践をフォローし、完遂させることこそが、優れたトレーナーの証しとなるのだろう。

残念ながら、本書の文章(訳文)には少々難がある。
目次の見出しと、実際の本文の見出しとが異なっている章もある。
版を重ね、部数も多く出回っているのだから、この本に希望を託そうとするバスケットファンや若者たちのために、手直しをしてくれたらいいのにと思う。

ところで、著者が初めてマイケル・ジョーダンと打ち合わせるためにジョーダンの自宅を訪ねた際のこと、帰り際にジョーダンが著者に言った言葉、

「2度とコンバースのシューズを履いてくるなよ。ナイキを履いてきてくれ」
(著者が直ちにナイキの靴を買いに行ったことは言うまでもない) 2005.10.23.


補足:
マイケル・ジョーダンのパフォーマンスを見ていない方、こんなDVDがある。
学生時代、デビュー当時から引退するまでのマイケル・ジョーダンのプレーを概観することができる。本編の他に、スラムダンクコンテストや記憶に残るシーンを集めたスペシャル・メニューもあり、楽しめる。
例えば、ダンクコンテスト。長い助走をつけ、フリースローのラインでジャンプ! 頭がリングと同じくらいまで上昇し、その頂点から落下するところでダンクシュートする。ジャンプの高さにも距離にも圧倒される。

 『Michael Jordan HIS AIRNESS』
  ワーナー・ホーム・ビデオ
  2,100円(税込)。

おまけ:
この本を買うきっかけになったのは、大型書店のスポーツ本の棚の前で立ち読みしていた男子がケータイで友人と話し始めたこと。彼は「前に話した、ジャンプ力をつける本を見つけたけど、今買う金がない」と話していた。それで、面白いかも?と思ったわけである。その時は手に取ることもしなかったが、後日別の書店で見て、「Perfect JUMP Form」を読んだ瞬間に買うことにした次第である。

『JUMP ATTACK』

著 者:
ティム・S・グローバー
訳 者:
大西 敦子
出版社:
日本文化出版
定 価:
日本文化出版

「ジャンプATTACKは筋肉トレーニング以上に反射力を訓練するプランでもある。これは筋肉の筋反射と伸長性収縮(エキセントリック・ムーブメント)が関係する。鍵を握る筋肉群はハムストリングス、大腿四頭筋、臀部筋、腹筋、下肢のふくらはぎ、足関節にかかる筋肉群がある。体幹や肩関節も忘れてはならない」
(イントロダクションより)
「You get out what you put in.(努力をする分、結果がついてくる)」
(第6章の扉より)


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